関節リウマチに見られる肺病変について

咳や痰が長く続く時には、早期に主治医に相談を

関節リウマチは主に関節が侵される疾患ですが、全身性にも炎症性の多臓器障害を起こすことがあります。中でも、肺は最も代表的な障害臓器で 肺が侵されると患者さんの将来の生活に大きな悪影響を及ぼすことになります。
関節リウマチ(以下 RAと略)に見られる肺病変は、大きく分けて、次の3つとなります。

(1) 関節外症状としての肺病変(RAによって引きおこされる)
(2) RAの治療薬剤によっておこる薬剤性肺障害
(3) 呼吸器感染症

(1) 関節外症状としての肺病変

(a) 間質性肺炎:RAにおこってくる肺の病変で最も多いものです。CT検査では RA患者さんの 20-50 % に見られると言われています。肺は肺胞と呼ばれる空気の袋がたくさん集まってできていますが、この肺胞どうしを つなぎ止めている部分が間質です。肺は伸びやすく弾力性がありますが、間質の部分が厚くなると 肺は伸びにくくなり 呼吸しづらくなります。これが間質性肺炎と呼ばれるものです。一度このような状態になるとほとんど元に戻ることはありませんが、大多数の人では進行しないか、進行は緩やかです。しかし、一部には呼吸困難や咳などの症状が急速に進行する例もあります。肺病変の程度と関節炎の進行状態とは必ずしも一致はしません。関節症状が軽くても肺が侵されることがあります。患者さんの多くは無症状ですが、進行した人ではひどい咳や呼吸困難が見られます。
残念ながらこの病変を治す特効薬はありません。しかし、多くの患者さんは症状がないか軽度なので治療適応となることはあまりありません。しかし,呼吸機能の低下が進行する場合や呼吸困難が急速に進行する時は入院が必要でステロイドホルモンの大量投与などが行われますが、効果のないこともあり、まだ治療法は確立されていません。

(b) 気管支拡張症:気管支の一部が拡張し、そこに分泌液がたまって炎症を起こす病気です。症状は長期間持続する咳,痰が主な症状ですが、細菌の感染を伴う場合が多く、膿性の痰や血痰を伴い、さらには喀血を見ることがあります。
最近、RAと気管支拡張症の関連を指摘する報告があり、多くは女性でリウマチ因子(RF)陽性とされています。また、気管支拡張症の増悪によってRA自体の増悪をおこす事があります。
診断はレントゲン、CT、気管支鏡などで行います。
治療は一度壊れた気管支は元には戻りませんが、エリスロマイシンやクラリスロマイシンという抗生物質を長期に使うとある程度症状を安定させることができます。

(2) 薬剤性肺障害(薬剤性間質性肺炎)

間質性肺炎の原因はRAだけでなく、非常に多くの様々な原因があります。本来、病気の治療に使われるはずだった薬によっても間質性肺炎はおこります。抗がん剤、抗生物質、血圧の薬、痛み止め、漢方薬など、ほとんどの種類の薬が間質性肺炎の原因となりうることが報告されています。RA の薬も例外ではありません。RAに使われる薬で原因としてはっきりしている薬は金製剤(シオゾール)、消炎鎮痛剤、ブシラミン(リマチル)などですが、最近では MTX(メトトレキサート)やLEF(レフルノミド)がRAに対して用いられる様になり、この2者は 急性かつ重篤な肺障害がおこるため、十分な注意が必要です。特に MTXは近年RAの標準薬として使用される機会も増えており、MTX肺炎も増加しています。
症状は咳(痰を伴わない)、発熱、労作時の呼吸困難で多くは急性に発症します。診断はレントゲンとCTでまず行いますが、これだけでは同様の所見を認める一部の感染症(カリニ肺炎)との鑑別は困難です。また、RAそのものでも間質性肺炎が起こり得るため、原因の特定は困難なことが多いです。治療は、疑いのある薬を中止すると共にステロイドホルモンの投与を行いますが、MTXが原因の肺炎には一度に大量のステロイドホルモン投与(パルス療法)が有効です。

(3) 呼吸器感染症(肺炎)

肺炎は RAの患者さんの入院理由として最も多く、主要な死因の1つでもあるので注意が必要です。ステロイドホルモンの使用、身体機能の低下、高齢、喫煙の習慣、糖尿病・肺疾患の合併、RAの罹病期間の長さが肺炎発症の危険因子とされています。また、近年導入された生物学的製剤により、重症感染症や日和見感染症(ひよりみかんせんしょう。免疫機能の低下するような薬の投与を受けている人におこる 健康な人には感染しない病原性の弱い微生物である真菌(カビ類)、サイトメガロウイルス、ニューモシスチスカリニなどによる感染症のこと)の増加をきたすことが問題となっています。
ステロイドホルモンや生物学的製剤を投与されている人は 発熱などの症状が出にくいので、診断・治療開始が遅れやすく、十分な注意が必要です。また、危険因子を持っている人は 軽い風邪症状のうちに ただちに主治医に報告して早めに治療を受け、重症化させないことも重要です。危険因子を持っている人や生物学的製剤の投与を受けている人は、インフルエンザの予防接種や肺炎球菌ワクチンの接種を受けておくのがよいでしょう。

以上、RAに見られる肺病変について述べましたが、今後 MTXや生物学的製剤の使用が増加するにつれて、呼吸器感染症と薬剤性間質性肺炎が問題となることが増えると思われます。咳や痰が長く続く時には単に風邪と自己判断して放置せずに 早期に主治医に相談することが重要です。

(2010.12.27)