関節リウマチと骨粗鬆症(こつそしょうしょう)について

関節リウマチの患者さんは 活動性の低下、薬物の影響、病気自体の影響などにより 高率に骨粗鬆症を合併します。骨粗鬆症治療の目的は骨折の危険性を抑制し、QOL(日常生活の質)の維持改善をはかることです。関節リウマチに合併した骨粗鬆症の治療は関節リウマチのコントロール(T2Tによる寛解導入)が最も重要で 薬剤では骨吸収抑制剤であるビスホスホネート製剤に高い効果のあることが認められています。

(はじめに)

関節リウマチの患者さんでは骨折のリスク(危険度)が高く、関節リウマチでない人に比べて 大腿骨近位部骨折は 1.51倍、骨盤骨折は 2.56 倍に増加しています。関節リウマチの活動性が高い場合、活動性低下に陥り、その結果 筋力低下がおこり転倒しやすくなるのが一因と思われますが、骨粗鬆症の合併により さらに骨折リスクは高まります。関節リウマチと骨粗鬆症は密接な関係があり、関節リウマチの患者さんは年齢に関係なく骨粗鬆症になりやすいことがわかっています。このため関節リウマチの患者さんでは合併する骨粗鬆症の診断・治療が重要な課題となっています。

(骨粗鬆症とは)

骨は体を支え、カルシウムの貯蔵庫として働いています。骨は固く、一度発育したら変化がないように見えますが、実は絶えず骨を壊す細胞(破骨細胞)により古い骨は壊され、骨を作る細胞(骨芽細胞)により新しく作られています。「骨が壊される過程-骨吸収」と「骨が作られる過程-骨形成」が絶えず繰り返されることを「骨のリモデリング」と言います。このリモデリングのサイクルが何らかの理由でおかしくなり、骨が作られる速度よりも 骨が壊される速度が速くなり 骨量(骨密度)が減少して骨がもろくなった状態を骨粗鬆症と言います。この結果、骨の変形、骨の痛み、さらには骨折をおこします。
骨折による痛みや障害はもちろんのこと、大腿骨近位部や脊椎椎体の骨折は高齢者の寝たきりにつながり、QOL(生活の質)を著しく低下させます。腰背部痛の30%は骨粗鬆症が原因です。

骨粗鬆症は「原発性骨粗鬆症」と「続発性骨粗鬆症」に分類されます。「原発性骨粗鬆症」は原因不明の骨粗鬆症のことで加齢や閉経後に見られ、骨粗鬆症の90%を占めます。「続発性骨粗鬆症」は原因が明らかな骨粗鬆症のことです。原因としては副甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、糖尿病、慢性腎臓病などの様な疾患やステロイド剤投与による薬剤性のものなどがあります。

(原発性骨粗鬆症の診断)

原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)によると、

  1. 椎体または大腿骨近位部に脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折(※)を認めるか、その他(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、橈骨遠位部、下腿骨)の脆弱性骨折があり骨密度が若年成人平均値の80%未満である
  2. 脆弱性骨折はないが骨密度が若年成人平均値の70%以下である
  3. 1.2.のいずれかを満たすものを原発性骨粗鬆症と診断するとされています。

※脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折とは わずかな外力で生じたと考えられる非外傷性骨折のことです。

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(骨粗鬆症の治療の目的)

骨粗鬆症治療の目的は骨折の危険性を抑制し、QOL(生活の質)の維持改善をはかることです。
骨粗鬆症による骨折は大腿骨近位部骨折のみならず、椎体骨折においても著明なADL(日常生活動作)・QOL低下と死亡リスクの増大につながることが明らかになっています。このため骨折の予防という観点から骨粗鬆症の治療が必要なのです。薬物療法の進歩で骨粗鬆症の骨折の危険性をある程度低下させることが可能になりました。しかし、現状の薬物治療には効果に限界があり骨強度の低下により骨折の危険性が増大していることが明らかな例において、その危険性をせいぜい30~50%低下させるに過ぎないということを十分理解しておくことが必要です。骨粗鬆症によって増大した骨折の危険性を低下させ健全な骨を維持するという目的のためには薬物療法だけでは十分ではありません。栄養、運動などを含め、骨強度を維持・増加させる生活習慣を確立するとともに、転倒などの骨折危険因子を回避する様な生活習慣をすすめることも重要なことです。

(骨粗鬆症の薬物療法)

「2011年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」では原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準が見直されたことが重要な変更点です。つまり 薬物治療の目的が骨粗鬆性骨折の予防である ことを最初に明記し、「脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折または椎体骨折)がある」患者は新たな骨折発生の危険性が上昇することから、骨密度測定の結果を問わず薬物治療を検討することとしました。大腿骨近位部骨折または椎体骨折以外の脆弱性骨折がある患者についても骨密度が若年成人平均値(YAM)の80%未満であれば薬物治療を検討するとしています。

骨粗鬆症の治療薬としては ①腸管からのカルシウム吸収量を増やす薬 ②骨形成を助ける薬 ③骨吸収(骨を壊す)を抑える薬 の3つが主に使用されます。

活性型ビタミンD3製剤-アルファカルシドール(アルファロール® ,ワンアルファ®)、 カルシトリオール(ロカルトロール®)、エルデカルシトール(エディロール®)など

カルシウムをいくら摂取しても腸管から吸収されなければ意味がありません。カルシウムの吸収にはビタミンDが関わっており、日光に当たることでビタミンDは合成されます。ビタミンDは肝臓や腎臓で活性型ビタミンD3となり、小腸のビタミンD受容体に働くことでカルシウム吸収が促されます。2011年に発売されたエルデカルシトールは従来の活性型ビタミンD3より骨への作用が強化されており、骨密度の改善、椎体骨折の予防効果が強くなったのが特徴です。

ビタミンK2製剤-メナテトレノン(グラケー®)

ビタミンK2は骨芽細胞に作用することで骨形成を促進します。

ビスホスホネート製剤-エチドロネート(ダイドロネル®),アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®)、リセドロネート(アクトネル®、ベネット®)、ミノドロン酸(ボノテオ®、リカルボン®)など

ビスホスホネートは骨に取り込まれた後に 破骨細胞に取り込まれて 破骨細胞を機能不全にさせることにより骨吸収(骨を壊す)を抑えます。その結果 骨密度の上昇、骨折抑制効果を発揮し、高いエビデンス(※)もあります。
ビスホスホネート製剤は 腸管からの薬物吸収が悪いため「起床後すぐに服用し、その後30分は横になったり水以外を飲んだり食べたりしてはいけない」などの制限が付いたため、服用を継続できない人がいました。このためアレンドロネート、リセドロネート、ミノドロン酸は 月1回服用で済む製剤も発売されています。しかし 食道炎や胃・十二指腸潰瘍の人には使えないという欠点がありました。そこで 2012年にアレンドロネートの点滴静注製剤(ボナロン点滴静注バッグ900μgR)が発売され、さらに2013年には新しいビスホスホネート製剤であるイバンドロ酸ナトリウム水和物の静注製剤(ボンビバR静注)が発売されました。いずれも月1回の投与でよく、経口剤のような服用時の制約もないため、継続しやすい薬剤であることが期待できます。
その他の副作用として抜歯などの際の顎骨壊死や長期服用時の 大腿骨転子下・骨幹部骨折が報告されていますので注意して使用すべきことはもちろんですが、これらの副作用の発生率はきわめて低いので ビスホスホネート製剤の骨折抑制効果に対する 高いエビデンスが重視され臨床現場では最も使用されています。


※エビデンスとは 実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」 のこと

選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM) ―ラロキシフェン(エビスタ®)、バゼドキシフェン(ビビアント®)

女性ホルモンの1つであるエストロゲンは骨吸収抑制作用を示しますが、乳がんなどの発がん性があることがあることが知られています。そのため 乳房のエストロゲン受容体には作用せず、骨のエストロゲン受容体にのみ作用すれば発がん性を気にせず使用することができます。このように骨のエストロゲン受容体に対して選択的に作用する薬剤が選択的エストロゲンモジュレーター(SERM)です。ビスホスホネート製剤のように服用時間の制限はありませんが、閉経後の女性のみが適応です。
骨密度上昇や椎体骨折抑制効果に対するエビデンスはありますが、大腿骨近位部骨折を抑制するというエビデンスはまだありません。

副甲状腺ホルモン(PTH) 製剤―テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)

副甲状腺ホルモンの誘導体で フォルテオ®は20μgを毎日、テリボン®は56.5μgを週1回皮下注射で使用します。
副甲状腺機能亢進症で副甲状腺ホルモンの分泌が亢進すると骨吸収が促進され骨粗鬆症となります。つまり副甲状腺ホルモンは骨を壊し骨の量を減少させるホルモンだと主に考えられていました。ところが副甲状腺ホルモンには骨を吸収する一方で、強力に骨形成を促進する作用があるのです。つまり 副甲状腺機能亢進症の様に持続的に血液中の副甲状腺ホルモンの濃度が高い状態では骨は吸収されて減少する状態(骨粗鬆症)に向かいますが、たとえばフォルテオ®の投与の様に24時間ごとに間欠的に副甲状腺ホルモン濃度を上昇させると、今度は強力に骨形成が促進され 骨密度は増加する方向に向かうことがわかりました。そこで骨形成促進剤として副甲状腺ホルモンの誘導体を使用するという考えが生まれました。毎日投与でも週1回投与でも効果は変わりません。骨密度の上昇、椎体骨折・非椎体骨折の抑制効果に対して高いエビデンスがあります。大腿骨近位部骨折を抑制するというエビデンスはまだありません。

テリパラチドはいわゆる第一選択薬ではありません。ビスホスホネート、SERM などの治療でも骨折を生じた例、高齢で複数の椎体骨折や大腿骨近位部骨折を生じた例、骨密度低下が著しい例などで使用が勧められています。

抗RANKL抗体薬-プラリア皮下注®

2013年6月に発売された皮下注射薬で 骨吸収に関与する破骨細胞の形成と活性化を行うタンパク質であるRANKL(ランクル)を阻害するのが抗RANKL抗体薬です。6カ月に1回の皮下注射でよいのが特徴です。主成分であるデノスマブはRANKLに対するモノクローナル抗体であり、選択的にRANKLを抑制して破骨細胞の働きを抑えます。その結果、骨吸収が遮断され、骨粗鬆症を治療することができると考えられています。

カテプシンK 阻害剤

破骨細胞による骨吸収に関与する酵素であるカテプシンK を阻害する抗体製剤が近日中に発売予定です。

スクレロスチン阻害剤

骨細胞から産生され骨形成を抑制するタンパク質であるスクレロスチンを阻害する抗スクレロスチン抗体製剤が新たな骨形成促進剤として開発中です。

(関節リウマチに伴う骨粗鬆症の分類)

①関節炎が起きている関節周辺の骨粗鬆症

原因としてもっとも重要なのは炎症のある関節で作られる IL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインと言われる物質です。これらの物質は骨を壊す破骨細胞の数を増やし働きを高める RANKL という物質を誘導することにより骨粗鬆症を引き起こします。炎症関節の障害による痛みや筋力低下による「不動」や閉経も関節周囲の骨粗鬆症に関与します。

②全身性骨粗鬆症

原因として 閉経、不動、関節リウマチ治療薬(ステロイド)があげられます。

関節リウマチ治療薬による骨粗鬆症とは

関節リウマチの治療は近年、メトトレキサート(MTX)を中心とする抗リウマチ薬と生物学的製剤が主体となっています。MTXは関節リウマチでの少量使用では骨への影響はなく、むしろ好ましい方向に働くと考えられています。生物学的製剤の中ではインフリキシマブ(レミケード®)のみが骨密度上昇のエビデンスがありますが、他の生物学的製剤も同様の機序で効果が期待できます。

関節リウマチ治療薬の中ではステロイド剤のみが明らかに骨粗鬆症をひきおこします。ステロイドは骨芽細胞を傷害して骨形成を抑制、破骨細胞の生存を持続させて骨吸収を促進します。

ステロイド性骨粗鬆症とは経口ステロイドを長期に服用している人がかかりやすい骨粗鬆症です。ステロイド性骨粗鬆症の特徴として骨密度の低下よりも骨の強度低下に伴う骨折リスクが大きいということがあります。そのため骨密度低下が著しくないのに骨折することも少なくありません。

1日の経口ステロイドの服用量が増えると脊椎椎体骨折のリスクも高くなりますが、服用量が少ないからリスクがなく、安心ということはありません。ステロイドの量としてプレドニゾロンに換算して1日 2.5 mg 未満の服用でも椎体骨折リスクは1.55 倍、1日7.5 mg以上では 5 倍以上、大腿骨近位部骨折も2倍以上になります(日本代謝学会「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」2004年度版から)。

ステロイド性骨粗鬆症の治療は骨折リスクの高い症例を治療対象にするようにわが国では「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン(2004年度版)」が用いられています。

内容は

経口ステロイドを3ヶ月以上使用中で脆弱性骨折を認める場合は直ちに薬物療法を開始する

脆弱性骨折を認めない場合でも、骨密度測定で若年成人平均値(YAM)の80%未満かプレドニゾロン換算で5mg以上服用中の場合は薬物治療を開始する

第一選択の薬剤はビスホスホネート製剤とする

という内容で脆弱性骨折の有無、骨密度、ステロイド薬平均投与量を骨折リスク上昇の因子として検討し、骨折リスクの高い順に治療へ導入されるよう重み付けしたものです。

(関節リウマチに合併した骨粗鬆症の診断・治療方針)

診断はステロイド使用例を除き、原発性骨粗鬆症の診断基準が用いられてきました。
診断においてDXAによる骨密度測定は骨粗鬆症の診断において重要な検査ですが、ステロイド薬が使われていることがある関節リウマチでは骨密度が正常でも骨強度が低下していることがあるので注意が必要です。

治療では、まず 関節リウマチの疾患活動性のコントロールが最も重要です。T2Tの原則に従い、早期の寛解を目指します(関節リウマチの治療目標とは-2011.05.07 Topics参照)。
関節リウマチに合併した骨粗鬆症に対する薬剤の骨折防止効果を検証した大規模な報告は未だありません。
関節リウマチでは炎症性サイトカインにより骨吸収が亢進しており、経口ステロイド剤が併用されている場合があることを考慮すると骨吸収抑制作用のあるビスホスホネート系の薬剤を使用するのが理にかなっています。現在、骨粗鬆症治療薬の中で関節リウマチに合併した骨粗鬆症による骨折抑制効果に対するエビデンスが確認されているのは ビスホスホネート系の薬剤のみです。抗RANKL抗体薬は発売されて間もないので エビデンスはないのですが、強力な骨吸収抑制作用があるので効果が期待されます。

関節リウマチに合併した骨粗鬆症の明確な治療開始基準はありませんが、経口ステロイド投与例を除き、先に述べた「2011年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」の基準が用いられて来ました。経口ステロイドを併用している場合には「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン(2004年度版)」を参考にして 骨折リスクが高い場合にはビスホスホネート製剤を積極的に使用し、場合によっては PTH製剤や抗RANKL抗体薬の使用も考慮すべきと思われます。

関節リウマチに合併した骨粗鬆症では 続発性骨粗鬆症の原因となる糖尿病、慢性腎臓病、肺疾患、アルコール多飲などがないか確認しておくことも必要です。
(2014.04.14)