非ステロイド性抗炎症薬( NSAIDs, 痛み止めとして処方される薬 )による胃腸障害について
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は痛み止めとして関節リウマチの治療において使用されることの多い薬剤です。副作用として最も多いのが上部消化管病変で 特に胃・十二指腸潰瘍が問題となっています。NSAIDs による潰瘍の予防には ①プロスタグランジン(PG)製剤 ②高用量のファモチジン ③プロトンポンプ阻害薬(PPI) のみが有効とされています。しかし NSAIDs の長期の漫然な使用には十分に注意を払う必要があります。
(はじめに)
非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs, NSAIDsと略し「エヌセイド」と読む)とは抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。
変形性関節症や関節リウマチなどの痛みに対し、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が痛み止めとして処方される機会は多く、多くの医療機関においては第一選択肢となっています。日本国内における胃・十二指腸潰瘍の死亡者数は毎年 約3,500 人との報告があり、そのほとんどがNSAIDsによるものと推察されています。一方、米国における調査では、NSAIDs投与を受けた患者 1,300 万人のうち毎年 10万7,000人が入院し、1万6,500人がNSAIDsによる消化管合併症で亡くなっています。さらにNSAIDsによる死亡者数は、白血病、エイズについで多く、悪性腫瘍よりもNSAIDsによる消化管出血で死亡する患者数の方が多く、処方頻度の多いNSAIDsの漫然な使用には注意を払う必要があるとされています。
A.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による上部消化管障害
1991年の日本リウマチ財団委員会報告では 3ヶ月以上NSAIDsを使用した1,008例の関節リウマチ(RA)患者の 62.3 %に何らかの上部消化管(胃・十二指腸)病変がみられ、その主なものは 胃潰瘍が 15.5 %, 十二指腸潰瘍が 1.9 %, 胃炎が 38.5 % で 何らかの病変がみられた患者のうち実に 54.9 % は無症状でした。この頻度は一般人を対象とした同時期の日本消化器集団検診学会統計のそれと比較して明らかに高率となっています。
潰瘍発症の危険因子として ①高齢 ②潰瘍の既往がある ③ステロイド剤を併用している ④高用量あるいは複数のNSAIDsの使用 ⑤抗凝固療法の併用 ⑥重篤な全身疾患の合併 が挙げられます。
特に 最近多くなった心臓疾患に対する低用量アスピリンによる抗凝固療法の併用は 消化性潰瘍の発生を2倍以上に増加させるという報告があります。
(治療と予防)
2007年に発表された「EBM に基づく胃潰瘍診療ガイドライン(第2版)」によると
①NSAIDsは可能ならば中止し、通常の潰瘍治療を行う
②NSAIDsの中止が不可能ならば プロトンポンプ阻害薬( PPI ; タケプロン®、オメプラール®、オメプラゾン®、ネキシウム®、パリエット®)、あるいはプロスタグランジン(PG)製剤(サイトテック®)による治療を行う
③NSAIDs継続下での再発防止にはプロトンポンプ阻害薬、PG製剤あるいは高用量のH2受容体拮抗薬(ファモチジン、ガスター®)を用い、低用量アスピリン投与下での再発防止にはプロトンポンプ阻害剤を用いることが推奨されています。同時に従来のNSAIDsを 上部消化管病変の発生の少ないことが示されている選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ、セレコックス®)に変更することも勧められています。
海外ではNSAIDs潰瘍による出血や穿孔などの重篤な合併症に対して プロトンポンプ阻害剤(PPI)による予防的治療が勧められています。これまでの検討からNSAIDs潰瘍の発生を予防できる薬剤は PPI、 PG製剤、高用量のファモチジンとされています。日本では2010年から一部のPPIがNSAIDs潰瘍の再発予防に健康保険適用となりました。
最近では潰瘍の既往があったり、腎機能低下のある人に対してはNSAIDs でなく、鎮痛解熱剤に分類され 消化管・腎障害がほとんどないとされているアセトアミノフェン(カロナール®)が用いられるようになりました。またモルヒネ様作用を有するオピオイド系鎮痛剤(トラムセット®、トラマール®)が慢性疼痛に対して使用できるようになり、従来の鎮痛剤で効果のない場合ばかりでなく、潰瘍の既往や腎機能障害のある人の鎮痛にも有効な薬剤となりました(2013.10.20 の Topics, 関節リウマチと腎障害の項 参照)。
B.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による下部消化管障害
近年、下部消化管(小腸・大腸)内視鏡検査の進歩によりNSAIDsは胃・十二指腸のみならず小腸や大腸にも潰瘍などの粘膜病変をおこすことが明らかになりました。しかし、NSAIDs下部消化管障害に関する疫学データはなく、最近になってやっとカプセル内視鏡を用いた検討が行われるようになり、NSAIDs投与後の小腸粘膜障害の発生率が 70 % にも達することや選択的COX-2阻害剤が病変の発生を有意に抑えることも報告されています。
治療は原因薬剤の中止・減量です。しかし 予防薬も含め 上部消化管病変に比べて分かっていないことが多いので今後の研究が待たれます。
(2013.12.17)