新型コロナワクチンの接種を受ける際、関節リウマチの薬や注射はどうしたらよいのか? ー そのまま継続か一時中止か?

日本国内では2021年2月17日から医療従事者を対象にアメリカの製薬会社ファイザーが開発したmRNAワクチンの先行接種や優先接種が行われています。2021年4月12日からは65歳以上の高齢者を対象にした優先接種も進められています。ファイザーのワクチンは1回目の接種から原則3週間後に2回目の接種を行う必要があります。

新型コロナ(COVID-19)ワクチンを関節リウマチの患者さんに使用する際の有効性・安全性についての明確な情報はありませんが、ワクチンを接種すべきかという点に関してあくまでも個人の自由意志による選択という前提のもとでファイザー製ワクチンは治験において95%という高い感染防御率を示す(1)ところから、欧州リウマチ学会(EULAR)は「リウマチ性疾患患者がワクチン接種を差し控えるべき理由がみあたらない」、アメリカリウマチ学会(ACR)は「ワクチン接種を強く推奨する」とし、日本リウマチ学会(JCR)もリウマチ性疾患ではCOVID-19重症化のリスクが高いとする報告(2)もあるため「リウマチ性疾患へのワクチン接種は検討するに値する」としています。また ワクチン接種の副反応がリウマチ性疾患で問題になるかということについては判断の材料になる材料が不足しており明確ではありません。現在(2021年5月15日)までのところ、アナフィラキシーがリウマチ性疾患で増えるという報告はなく(1)、原疾患の悪化も報告されていません。

関節リウマチで治療を受けている人が新型コロナワクチンの接種を受ける際に一番問題になるのは使用中の薬や注射をどうすべきかということです。実際にこの点に関しての患者さんからの質問が最も多いです。現時点で日本リウマチ学会から個別の薬剤や注射に関してワクチン接種の際にどうすべきかという具体的な案は示されていません。しかし、2021年4月28日にアメリカリウマチ学会(ACR)のホームページに「リウマチ性疾患の患者のための新型コロナワクチン接種の手引きの要約」が発表されました。全文は近いうちに Arthritis & Rheumatology に掲載される予定です。
この中から新型コロナワクチン接種時のリウマチ性疾患の薬と注射の使い方の手引きをまとめてみます。但しACRの注記にもあるようにこれらの手引きは現段階で確固たるデータに基づいたものではないので 臨床的判断に取って代わることはなく、将来変更される可能性もあります。

 

 

[ 新型コロナワクチンと免疫調節療法薬の使用のタイミングに関するアメリカリウマチ学会(ACR)の手引き ] (*これはあくまでもアメリカリウマチ学会の手引きです。特にメトトレキサート(MTX)に関しては日本とアメリカでは使用量に差がありますのでアメリカの手引きを日本でそのまま受け入れてよいか不明です。必ずワクチン接種前に主治医に確認をしてください。)


①糖質ステロイド(プレドニゾロン20mg/日 以下)

ワクチン接種時にも継続使用可です。

②スルファサラジン(アザルフィジン®)、レフルノミド(アラバ®)、タクロリムス(プログラフ®)および アバタセプト(オレンシア®)を除く以下の生物学的製剤

・TNF系;インフリキシマブ(レミケード®)、エタネルセプト(エンブレル®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®)、セルトリズマブペゴル(シムジア®)

・IL-6系;トシリズマブ(アクテムラ®)、サリルマブ(ケブザラ®)

これらの薬剤はワクチン接種時に継続使用可です。 

③メトトレキサート(MTX)

2回投与のワクチン(ファイザー、モデルナ)では各投与後から1週間MTXを服用中止します。1回投与のワクチン(ジョンソン・エンド・ジョンソン)では投与後から2週間MTXを中止します(ワクチンの効果に影響する可能性あり)。

④JAK阻害剤;トファシチニブ(ゼルヤンツ®)、バリシチニブ(オルミエント®)、ペフィシチニブ(スマイラフ®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、フィルゴチニブ(ジセレカ®)

いずれの薬剤もワクチン投与後から1週間服用中止です(ワクチンの効果に影響する可能性あり)。

⑤アバタセプト(オレンシア®)皮下注

ワクチン接種日の前後1週間、中止します(ワクチンの効果に影響する可能性あり)。

⑥アセトアミノフェン(カロナール®)、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)

リウマチ性疾患が落ち着いているなら、ワクチン接種の24時間前から中止が望ましい(ワクチンの効果への影響がわかっていない)。ワクチン接種後は通常通りの使用をしてよい。

 
 
 
 
 
 
(参考文献)
  1. Polack FP, et.al. Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine. New Engl J Med 383(27):2603-2615, 2020.
  2. Freites Nunez DD, et.al: Risk factors for hospital admissions related to COVID-19 in patients with autoimmune inflammatory rheumatic diseases. Ann Rheum Dis 79(11):1393-1399,2020.
 
 ( 2021.05.15 )