医薬品副作用被害救済制度について

関節リウマチの治療においては多くの薬物が使用されますので それによる副作用も当然あり得ます。しかし薬物が適正に使用され定期的に診察や検査を受けていれば、多くの副作用は十分に防止でき、万一おこったとしても早期に対処が可能で 重症化することは少ないと思われます。もし 不幸にして重篤な副作用がおこってしまった場合には 医薬品副作用被害救済制度を利用することができます

1.救済制度の目的

医薬品は今日、医療上必要不可欠なものとして国民の生命・健康の保持増進に大きく貢献していることは言うまでもありません。他方、医薬品は有効性と安全性のバランスの上に成り立っているものであり、副作用の予見可能性には限度があることなど医薬品のもつ特殊性から、その使用にあたって万全の注意を払ってもなお発生する副作用を完全に防止することは、現在の科学水準をもってしても非常に困難であるとされています。
またこれらの副作用による健康被害について、民法ではその賠償責任を追及することが難しく、たとえ追求することができても多大な労力と時間を費やさなければなりません。
医薬品副作用被害救済制度は 法律(医薬品医療機器総合機構法)に基づく公的な制度で 医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用に対して被害者の迅速な救済を図ることを目的としたものです。

2.制度の対象となる健康被害と給付の種類

医薬品(病院、診療所で処方されたものの他に 薬局で購入した市販薬も含まれます。但し 抗がん剤と免疫抑制剤は対象外です)を適正に使用したにもかかわらず、一定レベル以上の健康被害が生じた場合に医療費等の諸給付を行うものです。
対象となる健康被害とは入院を必要とする程度の疾病や日常生活が著しく制限される程度の障害、および死亡です。
薬剤の「適正な使用」の具体例は後に述べます。

3.給付の請求

医療費の給付の請求は健康被害を受けた本人(または遺族)が、請求書と医師の診断書などを医薬品医療機器総合機構(PMDA)に送付することにより行うことになっています。

4.医学的薬学的な判定

PMDAでは給付の請求があった健康被害について その健康被害が医薬品の副作用によるものか、医薬品が適正に使用されたかどうかなどの医学的薬学的判断について厚生労働大臣に判定の申し出を行い、厚生労働大臣は医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの判定の申し出に応じ、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)に意見を聴いて判定を行うこととされています。

5.給付の決定

PMDAは 厚生労働大臣による医学的薬学的判定に基づいて 給付の支給の可否を決定します。

6.関節リウマチの薬物治療と副作用について

関節リウマチの発症から2年間ぐらいが最も関節破壊の進行が早いことがわかっています。関節リウマチの治療目標は、関節破壊の阻止と日常生活を正常に維持することです。このためには早期に診断をつけて 治療効果が優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤を使用し、厳密な疾患コントロールを行い、寛解を目指すことが重要です(T2T―Topics 2011.05.07の項 参照)。

薬物治療を行う以上、副作用の問題は避けて通ることはできません。しかし 適正な使用が行われ、定期の診察と検査を受けていれば 副作用は十分に防止でき、万一おこったとしても早期に対処が可能で重症化することは少ないと思われます。もし不幸にして重篤な副作用が起こってしまった場合には公的な「医薬品副作用被害救済制度」を利用することができます。

関節リウマチの治療においては まれな副作用を恐れるあまり、発症から早期の重要な時期に治療効果の優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤の使用を拒否して治療のタイミングを逃し、関節破壊を進行させてしまうことが重大な問題と思われます。主治医から薬剤に関する十分な説明を受けて不安を取り除くことが重要です。

薬剤の「適切な使用」とは原則的には 医薬品の容器あるいは添付文書に記載されている用法・用量および使用上の注意に従って使用されること が基本となります。

関節リウマチで使用されることの多い薬剤について添付文書から用法・用量および使用上の注意を抜粋してみます(全てではありませんので注意)

セレコックス錠®(鎮痛剤)

  • 成人には1回100~200mgを1日2回
  • アスピリン喘息およびその既往のある患者、消化性潰瘍のある患者、重篤な腎障害、
  • 重篤な心不全のある患者には使用不可
  • 腎障害のある患者またはその既往歴のある患者は腎障害の悪化または再発のおそれあり

リマチル錠®(抗リウマチ剤)

  • 成人には1日100~300mg
  • 血液障害のある患者、骨髄機能の低下している患者、腎障害のある患者には使用不可
  • 骨髄機能低下やネフローゼ症候群などの重篤な腎障害をおこすことがあるので毎月1回
    血液および尿検査等の臨床検査を行うこと

③アザルフィジンEN錠®(抗リウマチ剤)

  • 成人には1日 1000mg まで
  • 定期的に(投与開始後最初の3ヶ月間は2週間に1回、次の3ヶ月間は4週間に1回、その後は3ヶ月ごとに1回)、血液学的検査および肝機能検査を行うこと。 また
    腎機能検査についても定期的に行うこと

④ブレディニン錠50mg®(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1日150mg
  • 骨髄機能抑制のある患者、細菌・ウイルス・真菌等の感染症を合併している患者、腎障害のある患者には慎重投与
  • 血液、肝機能、腎機能検査を頻回に行う

⑤プログラフカプセル0.5mg,1.0mg®(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1日3mg
  • シクロスポリンとは併用不可
  • 腎障害の発現頻度が高いので、頻回に腎機能検査を行うこと
  • 高カリウム血症や高血糖の発現があるので頻回に検査を行うこと
  • 高血圧が発現することがあるので定期的に血圧測定を行うこと
  • 感染症の発現・増悪に注意
  • B型肝炎ウイルスの再活性化による肝炎やC型肝炎の悪化が見られることあり

⑥メトトレキサート錠2mg®、リウマトレックスカプセル2mg®(MTX)(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1週間の投与量は16mg(8錠または8カプセル)まで
  • 間質性肺炎、肺線維症があらわれ呼吸不全にいたることがあるので、投与前に胸部レントゲンで肺疾患の有無を確認し、投与開始後は発熱、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状発現には十分注意する。また 患者に対し、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状が現れた場合には直ちに連絡するよう注意を与えること
  • 結核の既感染者は本剤投与により結核が再燃することがあるので、投与前に十分な検査を行い、結核感染の有無を確認すること
  • B型、C型肝炎ウイルスキャリアの患者に対する投与により 重篤な肝炎、肝障害が出現し、死亡例も報告されている。また本剤投与終了後にB型肝炎ウイルスが活性化することによる肝炎の発現も報告されている。B型又はC型肝炎ウイルスキャリアの患者に対し本剤を投与する場合、投与期間中及び投与終了後は継続して肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うこと
  • 骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)や重篤な肝障害の現れることがあるので4週間ごとに血液検査・肝機能検査を行うこと
  • 腎機能が低下している場合は副作用が強く現れることがあるので本剤投与前および投与中は腎機能検査を行うこと
    (2013.04.12)