これから出てくると思われる生物学的製剤以外の 新しい抗リウマチ剤について

生物学的製剤は RA 治療に革命的変化をもたらしたが、高価格が一番の問題。これから出てくると思われる JAK 阻害剤に期待

関節リウマチ(RA) の治療は、かつては日常生活における痛みのコントロールが中心でしたが、近年 目標達成(臨床的寛解-RAによる痛み・腫れがなく炎症所見がない状態)に向けた治療法( Treat to Target, T2T ) による治療戦略が必要とされ、T2T で RA の長期予後が改善することが明らかになって来ました( 2011.05.07 の Topics 参照 )。

治療目標達成のためには 関節破壊がおこる前の発症早期から メトトレキサート( MTX )を基本薬とし、必要に応じて 生物学的製剤を用いることが重要とされています。特に MTX は他の抗リウマチ薬と比べて有効性と副作用に対する忍容性(たとえ副作用があっても十分に耐えうることができる程度のこと)が圧倒的に高く、発症早期からリウマチ専門医が第1選択に使用すべきアンカードラッグ(中心的薬剤)と位置付けられています。しかし、MTX のみでは RA の滑膜炎や骨破壊の抑制が困難な症例も少なくなく、これらに関与する TNF や IL-6 といったサイトカインを標的とした生物学的製剤 ( 2010.12.12 の Topics 参照 )が導入されました。生物学的製剤は著明な治療効果を示し、RA 治療に革命とも言える変化をもたらしました。MTX と生物学的製剤を発症早期(2年以内)から併用すれば、30~50 % に臨床的寛解が得られることが明らかになりました。
しかし この生物学的製剤にも問題点があります。約 30 % の症例は TNF 阻害療法に抵抗性であり、投与法が注射(静脈、皮下注射)であることに加えて 最大の問題点は その高価格による経済的負担増にあります。生物学的製剤の使用は保険診療で行っても 現在の医療費の支払に加えて、さらに 年間 約45~50 万円の患者さんの自己負担増となります。ですから いくら「RA の発症早期から MTX と生物学的製剤による治療を行えば 寛解も夢ではなくなった」と言われても 誰もが無条件にすぐに受けられる治療ではありません。現に 生物学的製剤を投与されている方は 身体障害者手帳の1級、2級をもっていてすでに医療費の公的支援を受けている方がかなりの割合を占めています。

では 生物学的製剤が 日本だけで特別に高いかというと 決してそうではありません。抗 TNF-α製剤である レミケードRを 例にとって調べてみますと 英国と日本は ほぼ同じ価格で ドイツは 日本よりやや高い価格となっています。アメリカは 日本よりやや安くなっています。他の生物学的製剤も同じ傾向と思われます。この様な状況ですので 将来の大きな薬価の引き下げもあまり期待できません。しかも 福島原発の後始末や震災・津波被害からの復興費用に 23 兆円かかるという試算もあり、その財源のあても全く確保されてない現在、医療費の公的支援の増額などとても期待できません。

経済的な問題で ごく一部の人にしか生物学的製剤を使用できず、発症早期の必要な人すべてに自由に使用することができない様なら、「寛解導入が可能になった」という言葉も あまり現実味を持ちません。

この様な RA 治療の現況において 最近 サイトカインが細胞内で活性化して その生物活性を表すのに必要な Janus Kinase ( JAK ) を阻害する薬剤が注目されています。現在、複数の JAK 阻害剤が臨床試験段階にありますが、その効果発現は 投与開始後 数週からみられ、MTX 併用の有無にかかわらず、約 30 % の症例で寛解達成が可能であることが、複数の臨床試験で明らかになっています。この薬剤は 合成過程から低価格であることが予測され、しかも経口投与(飲み薬)なので 生物学的製剤が抱える種々の問題を解決可能な 新しい 抗リウマチ薬となることが期待されています。
(2011.09.12)