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医薬品副作用被害救済制度について

関節リウマチの治療においては多くの薬物が使用されますので それによる副作用も当然あり得ます。しかし薬物が適正に使用され定期的に診察や検査を受けていれば、多くの副作用は十分に防止でき、万一おこったとしても早期に対処が可能で 重症化することは少ないと思われます。もし 不幸にして重篤な副作用がおこってしまった場合には 医薬品副作用被害救済制度を利用することができます

1.救済制度の目的

医薬品は今日、医療上必要不可欠なものとして国民の生命・健康の保持増進に大きく貢献していることは言うまでもありません。他方、医薬品は有効性と安全性のバランスの上に成り立っているものであり、副作用の予見可能性には限度があることなど医薬品のもつ特殊性から、その使用にあたって万全の注意を払ってもなお発生する副作用を完全に防止することは、現在の科学水準をもってしても非常に困難であるとされています。
またこれらの副作用による健康被害について、民法ではその賠償責任を追及することが難しく、たとえ追求することができても多大な労力と時間を費やさなければなりません。
医薬品副作用被害救済制度は 法律(医薬品医療機器総合機構法)に基づく公的な制度で 医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用に対して被害者の迅速な救済を図ることを目的としたものです。

2.制度の対象となる健康被害と給付の種類

医薬品(病院、診療所で処方されたものの他に 薬局で購入した市販薬も含まれます。但し 抗がん剤と免疫抑制剤は対象外です)を適正に使用したにもかかわらず、一定レベル以上の健康被害が生じた場合に医療費等の諸給付を行うものです。
対象となる健康被害とは入院を必要とする程度の疾病や日常生活が著しく制限される程度の障害、および死亡です。
薬剤の「適正な使用」の具体例は後に述べます。

3.給付の請求

医療費の給付の請求は健康被害を受けた本人(または遺族)が、請求書と医師の診断書などを医薬品医療機器総合機構(PMDA)に送付することにより行うことになっています。

4.医学的薬学的な判定

PMDAでは給付の請求があった健康被害について その健康被害が医薬品の副作用によるものか、医薬品が適正に使用されたかどうかなどの医学的薬学的判断について厚生労働大臣に判定の申し出を行い、厚生労働大臣は医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの判定の申し出に応じ、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)に意見を聴いて判定を行うこととされています。

5.給付の決定

PMDAは 厚生労働大臣による医学的薬学的判定に基づいて 給付の支給の可否を決定します。

6.関節リウマチの薬物治療と副作用について

関節リウマチの発症から2年間ぐらいが最も関節破壊の進行が早いことがわかっています。関節リウマチの治療目標は、関節破壊の阻止と日常生活を正常に維持することです。このためには早期に診断をつけて 治療効果が優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤を使用し、厳密な疾患コントロールを行い、寛解を目指すことが重要です(T2T―Topics 2011.05.07の項 参照)。

薬物治療を行う以上、副作用の問題は避けて通ることはできません。しかし 適正な使用が行われ、定期の診察と検査を受けていれば 副作用は十分に防止でき、万一おこったとしても早期に対処が可能で重症化することは少ないと思われます。もし不幸にして重篤な副作用が起こってしまった場合には公的な「医薬品副作用被害救済制度」を利用することができます。

関節リウマチの治療においては まれな副作用を恐れるあまり、発症から早期の重要な時期に治療効果の優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤の使用を拒否して治療のタイミングを逃し、関節破壊を進行させてしまうことが重大な問題と思われます。主治医から薬剤に関する十分な説明を受けて不安を取り除くことが重要です。

薬剤の「適切な使用」とは原則的には 医薬品の容器あるいは添付文書に記載されている用法・用量および使用上の注意に従って使用されること が基本となります。

関節リウマチで使用されることの多い薬剤について添付文書から用法・用量および使用上の注意を抜粋してみます(全てではありませんので注意)

セレコックス錠®(鎮痛剤)

  • 成人には1回100~200mgを1日2回
  • アスピリン喘息およびその既往のある患者、消化性潰瘍のある患者、重篤な腎障害、
  • 重篤な心不全のある患者には使用不可
  • 腎障害のある患者またはその既往歴のある患者は腎障害の悪化または再発のおそれあり

リマチル錠®(抗リウマチ剤)

  • 成人には1日100~300mg
  • 血液障害のある患者、骨髄機能の低下している患者、腎障害のある患者には使用不可
  • 骨髄機能低下やネフローゼ症候群などの重篤な腎障害をおこすことがあるので毎月1回
    血液および尿検査等の臨床検査を行うこと

③アザルフィジンEN錠®(抗リウマチ剤)

  • 成人には1日 1000mg まで
  • 定期的に(投与開始後最初の3ヶ月間は2週間に1回、次の3ヶ月間は4週間に1回、その後は3ヶ月ごとに1回)、血液学的検査および肝機能検査を行うこと。 また
    腎機能検査についても定期的に行うこと

④ブレディニン錠50mg®(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1日150mg
  • 骨髄機能抑制のある患者、細菌・ウイルス・真菌等の感染症を合併している患者、腎障害のある患者には慎重投与
  • 血液、肝機能、腎機能検査を頻回に行う

⑤プログラフカプセル0.5mg,1.0mg®(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1日3mg
  • シクロスポリンとは併用不可
  • 腎障害の発現頻度が高いので、頻回に腎機能検査を行うこと
  • 高カリウム血症や高血糖の発現があるので頻回に検査を行うこと
  • 高血圧が発現することがあるので定期的に血圧測定を行うこと
  • 感染症の発現・増悪に注意
  • B型肝炎ウイルスの再活性化による肝炎やC型肝炎の悪化が見られることあり

⑥メトトレキサート錠2mg®、リウマトレックスカプセル2mg®(MTX)(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1週間の投与量は16mg(8錠または8カプセル)まで
  • 間質性肺炎、肺線維症があらわれ呼吸不全にいたることがあるので、投与前に胸部レントゲンで肺疾患の有無を確認し、投与開始後は発熱、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状発現には十分注意する。また 患者に対し、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状が現れた場合には直ちに連絡するよう注意を与えること
  • 結核の既感染者は本剤投与により結核が再燃することがあるので、投与前に十分な検査を行い、結核感染の有無を確認すること
  • B型、C型肝炎ウイルスキャリアの患者に対する投与により 重篤な肝炎、肝障害が出現し、死亡例も報告されている。また本剤投与終了後にB型肝炎ウイルスが活性化することによる肝炎の発現も報告されている。B型又はC型肝炎ウイルスキャリアの患者に対し本剤を投与する場合、投与期間中及び投与終了後は継続して肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うこと
  • 骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)や重篤な肝障害の現れることがあるので4週間ごとに血液検査・肝機能検査を行うこと
  • 腎機能が低下している場合は副作用が強く現れることがあるので本剤投与前および投与中は腎機能検査を行うこと
    (2013.04.12)

新しい抗リウマチ薬 トファシチニブ(tofacitinib)について

新しい抗リウマチ薬 トファシチニブ(JAK阻害剤)は メトトレキサート(MTX) 併用のもとで生物学的製剤であるアダリムマブ(ヒュミラR)と同等の効果のあることが報告されており、発売されれば 患者さんにとって治療の選択肢が増えることが期待されます

2012年12月14日にアメリカリウマチ学会(ACR)から届いたHOTLINE NEWSによりますと 米国食品医薬品局(FDA) は 11月6日 米国ファイザー社のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬( Topics 2011.09.12 を参照 )である 「トファシチニブ(米国の商品名: XELJANZ )」 を世界で初めて承認しました。

適応はメトトレキサート (MTX) で効果不十分または効果が見られない 中等度から重度の関節リウマチです。

JAK 阻害薬は 炎症性サイトカイン( TNF, IL-1, IL-6 ) が生物活性を発揮するために必要なシグナル伝達系であるチロシンキナーゼの JAKを特異的に阻害する 分子量 312.4 の低分子化合物で、経口投与が可能(注射でない)な抗リウマチ薬としては全く新しいクラスとなります。

多くの生物学的製剤と同様に MTXや他の抗リウマチ剤と併用して使用することが可能であるばかりでなく、単剤としての使用も可能です。しかし 生物学的製剤やアザチオプリン、シクロスポリンなどの強力な免疫抑制薬との併用は認められていません。

アメリカでの承認前の臨床治験の結果は ① 既存の抗リウマチ剤あるいは生物学的製剤に効果不十分な人々に対して単剤での使用 ② MTX に効果不十分な人々に対して MTX との併用 ③ 生物学的製剤(TNF阻害)で効果不十分な人々に対して MTXとの併用 のいずれの試験においても プラセボ(新薬などの医薬品に、本当に効果があるのかを実験する際に使う偽薬のこと)群に比べて有意な改善が認められました。

有害事象(薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない, あるいは意図しない徴候,症状,または病気)は 生物学的製剤と共通するものが多く、最も多く見られた重篤な有害事象は 重症の感染症で この頻度は既存の生物学的製剤と変わりませんでした。 最も多く報告された有害事象は 上気道感染症、頭痛、下痢、鼻咽頭炎でした。また 生物学的製剤に比べて 帯状疱疹の発生頻度が多かったという報告もあります。

使用量は 5mg を 1日2回 経口投与となっています。

最も気になる価格ですが ACR によると 1カ月(30日)分で 2055.13ドル(日本円1ドル93円として 19万1127円!)で生物学的製剤と同様にかなり高価なのが気になります。日本での薬価もほぼ同じぐらいと考えてよいでしょう。

その他、 2012年のアメリカの医学雑誌The New England Journal of Medicine にメトトレキサート(MTX)を投与されている関節リウマチの患者717人を3群に分け、トファシチニブ、生物学的製剤のアダリムマブ(ヒュミラ®)、プラセボをそれぞれ追加投与した所、投与後6カ月の時点で トファシチニブの有効性は プラセボより有意に優れ、生物学的製剤のアダリムマブと数値的に同程度であったという報告が掲載されました。
関節リウマチは全世界で 約 2370万人いるとされています。既存の治療薬は複数ありますが、治療効果が十分でない患者さんも少なからずいます。実際に患者さんの1/3では治療が十分に奏効せず、さらに約半数は 5年以内に特定の抗リウマチ剤に反応しなくなるという報告があります。依然として更なる治療薬の登場が望まれています。

日本でも 近日中に製造承認がおりて 2013年内にも販売されると予想されています。患者さんにとって また治療の選択肢が1つ増えたわけですが、薬価が高ければ生物学的製剤と同様に本当に必要な人々に適切な時期に使用することができないのではないかというのが 懸念されるところです。
(2013.02.18)

関節リウマチの予後予測因子とは

関節リウマチの新診断基準関節リウマチの関節破壊の予後予測因子として 初診時の レントゲン上の関節破壊の程度、リウマトイド因子陽性(高値)、抗CCP抗体陽性、CRP高値、血清MMP-3 高値 が重要です。これらの因子を持つ場合は 早期から強力に関節リウマチの炎症を制御する治療法を用いて厳密な疾患コントロールを行う必要があります

関節リウマチの治療目標は 関節破壊の阻止と日常生活動作を正常に維持することです。その目標達成のためには できるだけ早期に診断をつけて積極的に強力な治療を行うことに尽きるとされています。つまり 治療効果が優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤を使用し、厳密な疾患コントロールを行い、寛解を目指します( Treat To Target, T2T ― Topics 2011.05.07 の項 参照 )。
しかし 関節リウマチの病態自体は均一であっても進行にはかなりの個人差があることが知られています。したがって すべての人に「副作用の可能性をを伴う強力な治療を早期から行う必要性があるか」ということを十分に考慮しなくてはなりません。そこで 関節破壊の進行が早いハイリスク群を選び出して その人たちにのみ強力な治療を行う傾向が出てきています。この際に必要とされる情報が「予後予測因子」と言われるものです。

A)患者背景で関節リウマチの予後を予測しうる因子

①性、発症年齢

女性は男性に比べて関節予後が不良であると言われています。また 高齢(60歳以上)で発症した関節リウマチの方が発症時の活動性が高く、予後不良の傾向があります。

B)初診時から経過中に関節リウマチの予後を予測しうる因子

①発症から治療開始までの時間経過

関節リウマチの発症から2年間ぐらいが最も関節破壊の進行が早いことがわかっていますので、初診時までの期間、リウマチ専門医を訪れるまでの期間、抗リウマチ薬の投与を開始されるまでの期間が長いほど 関節破壊の進行が早いという報告があります。

②初診時の身体所見

初診時の疾患活動性が10年後の予後と関係するとの報告が多くあります。 特に初診時に腫脹関節数が多い、疼痛関節数が多い、リウマトイド結節があるなどは予後不良とされています。

③初診時の関節レントゲン所見

初診時のレントゲン上の関節破壊の程度は初診後 12ヶ月、24ヶ月目の程度とよく相関することが示されています。

④血液検査所見

血清リウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体、MMP-3、CRP が重要な予後予測因子とされています。

リウマトイド因子

予後予測因子の中では最も重要であるとする報告が多く見られます。リウマトイド因子陽性例では陰性例に比べて関節破壊が12年間で 3.3 倍早いという報告があり、さらに リウマトイド因子の値が高値である程 関節破壊の進行が早いという報告もあります。

抗CCP抗体(anticycllic citrullinated peptide antibody)

抗CCP抗体は関節リウマチの診断に有用で2010年のACR/EULARの新診断基準にも採用されています(Topics 2010.10.12 の項 参照)。
さらに抗CCP抗体陽性例は陰性例に比べて関節破壊が進行しやすいという報告が多く見られています。
そして抗CCP抗体とリウマトイド因子の組み合わせが早期関節リウマチにおいて 最も正確に予後予測を行いうるという報告もあります。

炎症の指標(CRP、赤沈)

CRPや赤沈値は炎症の指標として最も優れており、関節リウマチの活動性を反映する指標として用いられています。一定期間のCRPや赤沈の積分値がその6ヶ月後の関節破壊の進展を正確に予測するという報告があり、予後予測因子としても重要です。

MMP-3(マトリックス メタロプロテアーゼ-3)

最近 特に注目されている血清マーカーです。MMP-3は 関節の中にある線維芽細胞、滑膜細胞や軟骨細胞から分泌される蛋白分解酵素で関節リウマチの早期から血液中で検出されます。MMP-3の値は滑膜炎の程度と比例して上昇するので関節リウマチの活動性を反映する指標として有用です。
またリウマトイド因子と比べて関節リウマチに対する感度・特異性とも優れており、早期関節リウマチの診断にも有用です。
さらに 早期関節リウマチ(発症から1年以内)の経過観察において血清MMP-3が治療経過中に上昇または高値を維持した症例は関節破壊が進行し、一方 低下または低値を維持した症例は進行しない傾向が認められたという研究結果が報告されました。さらに MMP-3の値はその検査後、6ヶ月、12ヶ月の関節破壊とも相関することが複数の研究で明らかとなっています。このことから血清MMP-3は関節リウマチにおいて重要な予後予測因子であることが明らかになって来ました。

(2012.12.28)

関節リウマチ診療における超音波検査(関節エコー)の有用性について

関節超音波検査は、既存の関節リウマチの評価法の弱点を補完し、より早期の診断、より正確な病態の評価を可能とすることが期待されます

近年 関節リウマチ(RA) の治療は劇的に変化し、画像診断法も大きく変化しました。関節破壊の進行を阻止する手段が乏しかった時代はレントゲン写真を用いて 既に関節破壊をきたした RA を診断し、進行を確認するのみでしたが、MRI 検査や超音波検査が活用されるようになった結果、より早期の診断、そしてより正確な活動性評価に必要な情報を画像所見から得ることが可能となりました。なかでも超音波検査は 外来でも簡便に行うことが可能で欧州はもとより日本でも急速に広まりつつある臨床診断技術です。

超音波検査の有用性

① 関節リウマチの早期診断ならびに他の疾患との鑑別

最近の研究で RA は発症から 2 年以内の早期にメトトレキサート(MTX) を基本薬とし、必要に応じて生物学的製剤を用いることにより30~50 % の人に臨床的寛解(RAによる痛み・腫れがなく、炎症所見がない状態)が得られることが明らかになり、早期診断の重要性が強調されるようになりました。このためアメリカリウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)の新RA診断基準が 2010 年に発表されました(2010.10.12 の項 参照)。その中でも症状のある関節の評価手段として医師の診察手技による関節所見に加えて超音波検査および MRI があげられています。

超音波検査は医師による診察手技と比べて滑膜炎(関節の炎症)の検出に優れており、また骨びらんの検出においてもレントゲン写真より検出感度が高いため、より早期に RAの診断を可能とする場合があります。さらに超音波検査は他の疾患との鑑別にも有用とされています。

② 正確な 関節リウマチの活動性の評価

現在 RA の疾患活動性評価には主に DAS 28, SDAI, CDAI が用いられています(2011.05.07 の項 参照)。これらは 関節所見(痛み・腫れ)、赤沈値(CRP)、患者および医師の全般評価を組み合わせたものですが、医師や患者の主観的判断に依存する項目が含まれているために「活動性の評価」の再現性に問題があり、客観性に乏しいという指摘があります。

現実に 実際の診療においては関節所見の不明確な症例、あるいは症状・関節所見・検査所見の間に大きな解離(ひらき)の見られる症例が少なからずあり、治療方針に迷うことも多くあります。

また RA は臨床的寛解に至った後にも局所の関節において炎症が残存し、これにより関節破壊が進行することが明らかになりました。

超音波検査は RA の病態の中心である滑膜炎を直接見ることが可能で、その活動性の客観的な判断にも有用であるとされています。すなわち診察手技ではとらえられないような潜在性の滑膜炎を見つけて 適切な治療を行うことも可能となっています。

③患者本人の病態に対する理解度 および 患者―医師間の信頼関係の向上

超音波検査は医師と共に関節の画像を見ながらリアルタイムで説明を受けることが可能であるので 患者本人の病態に対する理解度が向上し、さらには 患者―医師間の信頼関係の構築にもつながります。そして病状に対して共通の認識を持つことにより 治療の導入、変更がスムーズに行えるという利点もあります。

(2012.08.02)

※写真は東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センターホームページより引用

関節リウマチ患者さんの肺炎球菌ワクチン接種について

生物学的製剤の投与を受けている関節リウマチの患者さんは 重症の細菌性肺炎にかかることがあるので 是非、接種を受けておくべきです

(1)肺炎球菌ワクチンとは

日本人の死因の4番目が(細菌性)肺炎です。高齢者を中心に肺炎で亡くなる人は年間8万人に達します。
中でも、高齢者の重症市中肺炎(一般家庭で暮らす人の肺炎を市中肺炎という)の約 50%、院内肺炎(入院中の患者さんがかかる肺炎のこと)の約 10%が肺炎球菌によるとされています。
「肺炎球菌ワクチン」は、高齢者の肺炎の原因となる病原体の中で 最も頻度の高い「肺炎球菌」という細菌を狙った予防ワクチンです。もちろん、肺炎球菌以外の微生物による肺炎の予防効果はありません。したがって「肺炎球菌ワクチン」はすべての肺炎に有効ということではありません。しかし このワクチンには 肺炎予防効果と共に肺炎になっても軽症ですむ効果や抗生物質が効きやすいなどの効果が見られます。
つまり、近年、ペニシリンなどの抗生物質が効きにくい肺炎球菌が増加し、30~50 %にもおよぶといわれていますが、肺炎球菌ワクチンはこの様な耐性菌にも効果が見られるのです。さらに インフルエンザにかかった高齢者の 1/4 が細菌性肺炎になるとも言われていることから、インフルエンザワクチンとの併用が望ましいとされています。
現在 日本では ニューモバックスRという製品が販売されていますが、残念ながら まだ健康保険の適応にはなっていません。最近、日本感染症学会で老人施設の高齢者 1000 人を対象とした 3 年間の研究結果が発表されました。それによるとワクチン接種者は未接種者に比べて(細菌性)肺炎の発症率が45 %少なく、肺炎球菌性肺炎が 63 %少ないことがわかりました。さらに驚くべきことは 未接種者で肺炎球菌性肺炎を発症した 37 人のうち 13 人( 35.1 % )が死亡したのに対し、ワクチン接種者では死亡者がいなかったということです。
「肺炎球菌ワクチン」の効果は 5 年とされています。日本では 再接種が許可されていませんでしたが、2009 年から 65 歳以上の高齢者、免液不全のある人、免液抑制剤の投与を受けている人などに対して 初回接種から 5 年以上経った場合に認められました。

(2)関節リウマチ患者さんの細菌性肺炎予防対策としての「肺炎球菌ワクチン」接種

関節リウマチの患者さんは 治療薬として ステロイドホルモン、メトトレキサート( MTX )、さらには生物学的製剤など 感染症に対する免液応答を抑える薬剤を投与されている場合が多くあり、このため呼吸器感染症をこじらせて 肺炎を起こし 寿命を縮めてしまうことがあります。特に 生物学的製剤は 最近、多く使われる傾向にありますが 強力な免液抑制作用を持つため 重症の細菌性肺炎を完全に避けることは難しく、慎重な投与が必要です。
免液抑制作用を持つ治療薬の投与を受けている関節リウマチ患者さんの細菌性肺炎予防対策としては

(1) カゼの予防に努める(マスク、手洗い、冬場は人ごみの中に出かけない)
(2) カゼをひいた場合は メトトレキサートや生物学的製剤の使用を一時中止あるいは延期する
(3) 高熱や濃厚な色の痰が続く場合は すぐ主治医の診察を受ける
(4) 禁煙(喫煙は肺炎の危険を 4 倍増加させるという報告あり)
(5) ワクチンの接種(インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン)を受ける

などがあり、これらを実行することで感染症の危険を少しでも減らすことが重要です。
(2011.12.13)

これから出てくると思われる生物学的製剤以外の 新しい抗リウマチ剤について

生物学的製剤は RA 治療に革命的変化をもたらしたが、高価格が一番の問題。これから出てくると思われる JAK 阻害剤に期待

関節リウマチ(RA) の治療は、かつては日常生活における痛みのコントロールが中心でしたが、近年 目標達成(臨床的寛解-RAによる痛み・腫れがなく炎症所見がない状態)に向けた治療法( Treat to Target, T2T ) による治療戦略が必要とされ、T2T で RA の長期予後が改善することが明らかになって来ました( 2011.05.07 の Topics 参照 )。

治療目標達成のためには 関節破壊がおこる前の発症早期から メトトレキサート( MTX )を基本薬とし、必要に応じて 生物学的製剤を用いることが重要とされています。特に MTX は他の抗リウマチ薬と比べて有効性と副作用に対する忍容性(たとえ副作用があっても十分に耐えうることができる程度のこと)が圧倒的に高く、発症早期からリウマチ専門医が第1選択に使用すべきアンカードラッグ(中心的薬剤)と位置付けられています。しかし、MTX のみでは RA の滑膜炎や骨破壊の抑制が困難な症例も少なくなく、これらに関与する TNF や IL-6 といったサイトカインを標的とした生物学的製剤 ( 2010.12.12 の Topics 参照 )が導入されました。生物学的製剤は著明な治療効果を示し、RA 治療に革命とも言える変化をもたらしました。MTX と生物学的製剤を発症早期(2年以内)から併用すれば、30~50 % に臨床的寛解が得られることが明らかになりました。
しかし この生物学的製剤にも問題点があります。約 30 % の症例は TNF 阻害療法に抵抗性であり、投与法が注射(静脈、皮下注射)であることに加えて 最大の問題点は その高価格による経済的負担増にあります。生物学的製剤の使用は保険診療で行っても 現在の医療費の支払に加えて、さらに 年間 約45~50 万円の患者さんの自己負担増となります。ですから いくら「RA の発症早期から MTX と生物学的製剤による治療を行えば 寛解も夢ではなくなった」と言われても 誰もが無条件にすぐに受けられる治療ではありません。現に 生物学的製剤を投与されている方は 身体障害者手帳の1級、2級をもっていてすでに医療費の公的支援を受けている方がかなりの割合を占めています。

では 生物学的製剤が 日本だけで特別に高いかというと 決してそうではありません。抗 TNF-α製剤である レミケードRを 例にとって調べてみますと 英国と日本は ほぼ同じ価格で ドイツは 日本よりやや高い価格となっています。アメリカは 日本よりやや安くなっています。他の生物学的製剤も同じ傾向と思われます。この様な状況ですので 将来の大きな薬価の引き下げもあまり期待できません。しかも 福島原発の後始末や震災・津波被害からの復興費用に 23 兆円かかるという試算もあり、その財源のあても全く確保されてない現在、医療費の公的支援の増額などとても期待できません。

経済的な問題で ごく一部の人にしか生物学的製剤を使用できず、発症早期の必要な人すべてに自由に使用することができない様なら、「寛解導入が可能になった」という言葉も あまり現実味を持ちません。

この様な RA 治療の現況において 最近 サイトカインが細胞内で活性化して その生物活性を表すのに必要な Janus Kinase ( JAK ) を阻害する薬剤が注目されています。現在、複数の JAK 阻害剤が臨床試験段階にありますが、その効果発現は 投与開始後 数週からみられ、MTX 併用の有無にかかわらず、約 30 % の症例で寛解達成が可能であることが、複数の臨床試験で明らかになっています。この薬剤は 合成過程から低価格であることが予測され、しかも経口投与(飲み薬)なので 生物学的製剤が抱える種々の問題を解決可能な 新しい 抗リウマチ薬となることが期待されています。
(2011.09.12)

関節リウマチの治療目標とは

治療目標 ( 関節リウマチによる痛み・腫れがなく、炎症所見がない状態である臨床的寛解の達成 が目標 ) を明確にし、目標達成に向けた治療法 ( Treat to Target, T2T ) を行うことが重要

糖尿病や高血圧は慢性疾患であり、コントロールを十分に行わないと重篤な合併症の併発や身体障害になる恐れがあり、その結果、生命予後が悪化する可能性のある疾患です。そのため、これらの疾患では 治療目標を明確にし、目標達成に向けた治療法 ( Treat to Target, T2T ) が提唱されています。これらの慢性疾患では、T2T の概念を用いた厳密な管理により 長期の予後が改善することが すでに明らかになっています( 糖尿病では ヘモグロビンA1c が 7 % 未満; 高血圧では血圧 140/90 、心血管系の合併症の発生率を低下させるため LDL コレステロール値 70 mg/dl、が治療目標 )。

これらのことから 近年、関節リウマチ (RA) においても目標達成に向けた治療法(T2T) による治療戦略が求められており、実際に多くの論文報告でも T2T で RA の長期の予後が改善することが示されていました。
2009年の欧州リウマチ学会 ( EULAR ) による RA 治療の勧告によると 関節リウマチの治療目標は すべての患者において 早期 RA では 「寛解」、もしくは 罹病期間の長い RA では「低疾患活動性」にすべき とされました。そして、その治療目標が達成されるまでは 1~3ヶ月毎に疾患活動性の評価を行い、薬物治療法を見直します。その結果、目標が達成されれば、維持療法を行い、3~6ヶ月毎に疾患活動性を評価し、再燃すれば薬物治療法を変更し、寛解あるいは低疾患活動性を維持してゆきます。

20110506-01「寛解」や「低疾患活動性」を治療目標とするのは 様々なデーターの解析で関節破壊の進行は 低疾患活動性 さらには 寛解の達成によって 最も抑えられることが示されたからです。しかし「寛解」の基準として万人が認めるものは まだ存在しません。現時点では RA の活動性(勢い)がない状態、つまり 痛み・腫れがなく、炎症所見がない状態とされ、臨床的寛解と言われています。その評価には 後述する DAS28, SDAI, CDAI 基準が使用されています。

また アメリカリウマチ学会 ( ACR ) と 欧州リウマチ学会 ( EULAR ) も合同で 2010 年に 2 通りの RA の暫定的な寛解基準案を発表しています(右表)。

RA の疾患活動性を評価する方法として 最近では DAS28, SDAI, CDAI などの評価方法が利用されています。それぞれ 四肢 28 関節の圧痛関節数、腫脹関節数、赤沈値や CRP値、患者や医師の全般改善度 ( VAS ) により計算され、高疾患活動性、中等度疾患活動性、「低疾患活動性」、そして「寛解」と分類評価されます(下表)。

20110506-2

治療目標達成のためには、
関節破壊がおこる前の早期診断 (2010年 ACR/EULAR RAの新診断基準 - 2010.10.12 Topics 参照) と メトトレキサート( MTX )を基本薬とし、
必要に応じて生物学的製剤 ( 抗サイトカイン療法 - 2010.10.15 Topics 参照 ) を用いる早期治療 で、十分な疾患管理を行うことが重要です

(2011.05.07)

関節リウマチに対してメトトレキサート(MTX、リウマトレックスカプセル®、メトトレキサート錠®)が 週16mg まで増量投与が可能となり、第一選択薬として処方できるようになりました

関節リウマチの新診断基準MTXを週16mgまで増量することが認められ、やっと世界標準の治療ができるようになりました

MTX(メトトレキサート)は最も有効性の高い抗リウマチ薬で、関節リウマチ(RA)の関節破壊の抑制や遅延に対する効果について世界的にエビデンス(臨床研究に基づく実証の報告)が示されています。また効果が用量依存的(投与量が増えるに従い効果も上がる)であることも確認されています。MTXはアメリカでは 1988年に発売されていますが、日本では10年以上遅れて1999年に発売されました。

2010年に発表されたアメリカリウマチ学会(ACR)/欧州リウマチ学会(EULAR)合同の新RA診断基準(Topics, 2010.10.12の項を参照)は、早期にRAと診断した患者にMTXを使用し、関節破壊を阻止することを目的としたものです。

RAの診断の確立した症例において寛解の達成および骨破壊抑制の観点から、現在のところ、最も効果の期待できる治療は MTX + 生物学的製剤 の併用療法であることがわかっています。しかし、初期治療より生物学的製剤(Topics, 2010.10.15の項を参照)を用いることは患者さんに大きな経済的負担を強いるばかりか、過剰医療の可能性、医療経済の観点などからも勧められません。

2007年の日本リウマチ学会の改訂ガイドラインでもMTXを中心とした抗リウマチ剤の効果不十分例が生物学的製剤の適応とされています。ところが日本においては欧米に比べてMTXの使用量が制限される状況が長年の問題となっていました。欧米での成人用量上限は週25mg なのに対して、日本では週8mg が上限となっていました。また添付文書上はRAの第一選択薬とすることも認められていませんでした。この様な状況は「MTXはRA治療の根幹をなす薬剤」という世界のRA治療の常識から大きくかけ離れたものでした。この状況の打開のため日本リウマチ学会は過去のMTX使用のデーターの詳細な解析を行いました。その結果、MTXを週16mgまで増量するとRA治療に対する有効性は用量が増すにつれて向上しますが、副作用には有意な変化はないという結論に達しました。この結果を基にMTXの週16mgまでの増量投与を厚生労働省に申請し、2011年2月23日、RAの治療においてMTXの使用が週16mgまで承認され、しかも必要に応じて第一選択薬としての使用も可能になりました

これで日本のリウマチ診療もようやく世界に比肩することができるようになりました。
(2011.02.23)

関節リウマチと喫煙との関係について

だんだん明らかになってきた喫煙と関節リウマチの関係

タバコの煙にはニコン、一酸化炭素、タールが含まれるのみならず、タールの中には数十種類にも及ぶ発がん物質が含まれています。このため喫煙することにより循環器系、呼吸器系などに対して血圧上昇、心拍数増加、咳・痰、息切れといった急性影響が見られます。また喫煙者では肺がんをはじめとする種々のがん、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患、慢性気管支炎・肺気腫などの閉塞性肺疾患、胃・十二指腸潰瘍などの消化器疾患、その他種々の疾患のリスクが増大することが知られています。
最近、喫煙と関節リウマチとの関係がだんだん明らかになってきました。

(1)関節リウマチの発症に対する喫煙の影響

関節リウマチ発症率に関し、喫煙群は非喫煙群の1.4~2.5倍高く、さらに男性の喫煙群では4倍高いという報告があります。そして40年以上の喫煙歴を持つ人では、13.5倍にもなります。 またある特殊な遺伝子を持つ喫煙者は この遺伝子を持たない非喫煙者に比べて 関節リウマチの発症率が 21 倍もあることが最近の研究で明らかになっています。

(2)関節リウマチの経過に対する喫煙の影響

喫煙者は非喫煙者に比べてリウマチ因子(RF)の陽性率が高くかつ高値を示し、特に男性でこの傾向が強いことがわかっています。また喫煙者ではレントゲンで関節破壊の程度が強いという報告があります。逆に禁煙することにより 関節リウマチの症状が軽快することも明らかになっています。

(3)関節リウマチの合併症に対する喫煙の影響

関節リウマチの患者さんはそうでない人に比べて心筋梗塞や脳梗塞などの血管疾患の発症率が高いことがわかっていますが、喫煙は動脈硬化を促進することによりこれらの疾患の発症に悪影響を及ぼすことが考えられます。また関節リウマチに見られる肺病変(2010.12.27)の項で述べたように関節リウマチは間質性肺炎や気管支拡張症を合併することが知られていますが、喫煙はこれらの合併症の発症や症状の悪化に密接に関連することがわかっています。

以上のように、喫煙は関節リウマチの発症と関連があり、その経過、合併症に対して悪影響を及ぼしますので避けるべきです

(2011.02.14)

関節リウマチに見られる肺病変について

咳や痰が長く続く時には、早期に主治医に相談を

関節リウマチは主に関節が侵される疾患ですが、全身性にも炎症性の多臓器障害を起こすことがあります。中でも、肺は最も代表的な障害臓器で 肺が侵されると患者さんの将来の生活に大きな悪影響を及ぼすことになります。
関節リウマチ(以下 RAと略)に見られる肺病変は、大きく分けて、次の3つとなります。

(1) 関節外症状としての肺病変(RAによって引きおこされる)
(2) RAの治療薬剤によっておこる薬剤性肺障害
(3) 呼吸器感染症

(1) 関節外症状としての肺病変

(a) 間質性肺炎:RAにおこってくる肺の病変で最も多いものです。CT検査では RA患者さんの 20-50 % に見られると言われています。肺は肺胞と呼ばれる空気の袋がたくさん集まってできていますが、この肺胞どうしを つなぎ止めている部分が間質です。肺は伸びやすく弾力性がありますが、間質の部分が厚くなると 肺は伸びにくくなり 呼吸しづらくなります。これが間質性肺炎と呼ばれるものです。一度このような状態になるとほとんど元に戻ることはありませんが、大多数の人では進行しないか、進行は緩やかです。しかし、一部には呼吸困難や咳などの症状が急速に進行する例もあります。肺病変の程度と関節炎の進行状態とは必ずしも一致はしません。関節症状が軽くても肺が侵されることがあります。患者さんの多くは無症状ですが、進行した人ではひどい咳や呼吸困難が見られます。
残念ながらこの病変を治す特効薬はありません。しかし、多くの患者さんは症状がないか軽度なので治療適応となることはあまりありません。しかし,呼吸機能の低下が進行する場合や呼吸困難が急速に進行する時は入院が必要でステロイドホルモンの大量投与などが行われますが、効果のないこともあり、まだ治療法は確立されていません。

(b) 気管支拡張症:気管支の一部が拡張し、そこに分泌液がたまって炎症を起こす病気です。症状は長期間持続する咳,痰が主な症状ですが、細菌の感染を伴う場合が多く、膿性の痰や血痰を伴い、さらには喀血を見ることがあります。
最近、RAと気管支拡張症の関連を指摘する報告があり、多くは女性でリウマチ因子(RF)陽性とされています。また、気管支拡張症の増悪によってRA自体の増悪をおこす事があります。
診断はレントゲン、CT、気管支鏡などで行います。
治療は一度壊れた気管支は元には戻りませんが、エリスロマイシンやクラリスロマイシンという抗生物質を長期に使うとある程度症状を安定させることができます。

(2) 薬剤性肺障害(薬剤性間質性肺炎)

間質性肺炎の原因はRAだけでなく、非常に多くの様々な原因があります。本来、病気の治療に使われるはずだった薬によっても間質性肺炎はおこります。抗がん剤、抗生物質、血圧の薬、痛み止め、漢方薬など、ほとんどの種類の薬が間質性肺炎の原因となりうることが報告されています。RA の薬も例外ではありません。RAに使われる薬で原因としてはっきりしている薬は金製剤(シオゾール)、消炎鎮痛剤、ブシラミン(リマチル)などですが、最近では MTX(メトトレキサート)やLEF(レフルノミド)がRAに対して用いられる様になり、この2者は 急性かつ重篤な肺障害がおこるため、十分な注意が必要です。特に MTXは近年RAの標準薬として使用される機会も増えており、MTX肺炎も増加しています。
症状は咳(痰を伴わない)、発熱、労作時の呼吸困難で多くは急性に発症します。診断はレントゲンとCTでまず行いますが、これだけでは同様の所見を認める一部の感染症(カリニ肺炎)との鑑別は困難です。また、RAそのものでも間質性肺炎が起こり得るため、原因の特定は困難なことが多いです。治療は、疑いのある薬を中止すると共にステロイドホルモンの投与を行いますが、MTXが原因の肺炎には一度に大量のステロイドホルモン投与(パルス療法)が有効です。

(3) 呼吸器感染症(肺炎)

肺炎は RAの患者さんの入院理由として最も多く、主要な死因の1つでもあるので注意が必要です。ステロイドホルモンの使用、身体機能の低下、高齢、喫煙の習慣、糖尿病・肺疾患の合併、RAの罹病期間の長さが肺炎発症の危険因子とされています。また、近年導入された生物学的製剤により、重症感染症や日和見感染症(ひよりみかんせんしょう。免疫機能の低下するような薬の投与を受けている人におこる 健康な人には感染しない病原性の弱い微生物である真菌(カビ類)、サイトメガロウイルス、ニューモシスチスカリニなどによる感染症のこと)の増加をきたすことが問題となっています。
ステロイドホルモンや生物学的製剤を投与されている人は 発熱などの症状が出にくいので、診断・治療開始が遅れやすく、十分な注意が必要です。また、危険因子を持っている人は 軽い風邪症状のうちに ただちに主治医に報告して早めに治療を受け、重症化させないことも重要です。危険因子を持っている人や生物学的製剤の投与を受けている人は、インフルエンザの予防接種や肺炎球菌ワクチンの接種を受けておくのがよいでしょう。

以上、RAに見られる肺病変について述べましたが、今後 MTXや生物学的製剤の使用が増加するにつれて、呼吸器感染症と薬剤性間質性肺炎が問題となることが増えると思われます。咳や痰が長く続く時には単に風邪と自己判断して放置せずに 早期に主治医に相談することが重要です。

(2010.12.27)