Topics -トピックス-

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版について(主な改訂項目)

脆弱性骨折なしの場合の治療開始基準で若干の変更がなされた他、抗RANKL抗体やビスホスホネート製剤の一部に高い評価が与えられました。

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版が7月に発刊されました。2011年版以来となりますが、その間に骨粗鬆症の診療における重要な基準の改定が相次いだこと、新規の作用機序を有する薬剤や既存薬の新たな剤形が登場したことから改訂版が策定されました。内容は原発性骨粗鬆症で脆弱性骨折(わずかな外力で生じたと考えられる非外傷性骨折のこと)がない場合の薬物治療開始基準に若干の変更がなされた他、治療薬の評価は推奨グレードではなく有効性となり、選択しやすくなりました。

*A,B,C の意味は本文中の説明を参照

具体的には新規のテリパラチド酢酸塩(テリボン®)、イバンドロネート(ボンビバ®)、抗RANKL抗体デノスマブ(プラリア®)、既存薬の注射剤や点滴製剤といった新しい剤形に関する情報とエビデンスを追加したほか、治療薬の選択や評価管理に関する記述を追加しました。
さらに 骨粗鬆症治療薬については推奨グレード(A-D)に替えて「有効性の評価(A,B,C)としました。骨密度上昇効果については 「A :上昇効果がある」「B:上昇するとの報告はある」「C:上昇するとの報告はない」、骨折発生抑制効果は椎体・非椎体・大腿骨近位部のそれぞれについて「A:抑制する」「B: 抑制するとの報告がある」「C:抑制するとの報告はない」との基準で評価することになりました。
骨粗鬆症に適応がある治療薬のなかで デノスマブ(プラリア皮下注60mgシリンジ®)、アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®)、リセドロネート(ベネット®、アクトネル®)の有効性については 骨密度上昇効果ならびに椎体・非椎体・大腿骨近位部いずれの骨折発生抑制効果ともにA評価が下されています。
(2015.10.17)

「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2014年版」について

2014年版は 日本でのエビデンスを基に簡便にリスク評価ができるようにし、臨床現場で使いやすい指針となることを目指しました

前回(2014年4月14日)のTopics直後の2014年4月17日に日本骨代謝学会から「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2014年版」が発表されました。前版は2004年に出されており、10年ぶりの改訂となります。改訂の理由として前版を遵守する医師が2割程度しかいなかったため、日本でのエビデンスを基に 簡便なリスク評価ができるようにして臨床現場で使える指針とすることを目指したとされています。
改訂された本指針は「既存骨折」「年齢」「ステロイド投与量」「腰椎骨密度」の4つの危険因子ごとにスコア付けし、スコアが3以上なら薬物療法を推奨する仕組みになっています(図1 参照)。

p1

スコアが3以上であれば 第一選択薬として アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®)またはリセドロネート(アクトネル®、ベネット®)、の投与を推奨しています(図2参照)。

ステロイドの内服や点滴による骨粗鬆症患者は日本に約200万人いると推定されています。骨粗鬆症はステロイド投与による最も多い副作用として知られており、椎体骨折や大腿骨近位部骨折といった関連骨折につながります。骨折リスクは投与開始から3~6カ月でピークに達します。前回のTopicsにも書いたように 低用量の使用であっても安心はできないとされています。
また 今は投与されていなくても 過去に一度でも3ヶ月以上のステロイド投与歴があれば骨折リスクは 2.25倍に上がります。たとえ投与中止後に骨密度が回復しても 骨の構造自体に異常がおこるため 数年間にわたり骨折リスクは低下しません。年齢が若くても同様で、椎体骨折のリスクは女性よりもむしろ男性に高いとみられています。
(2015.07.21)

関節リウマチと骨粗鬆症(こつそしょうしょう)について

関節リウマチの患者さんは 活動性の低下、薬物の影響、病気自体の影響などにより 高率に骨粗鬆症を合併します。骨粗鬆症治療の目的は骨折の危険性を抑制し、QOL(日常生活の質)の維持改善をはかることです。関節リウマチに合併した骨粗鬆症の治療は関節リウマチのコントロール(T2Tによる寛解導入)が最も重要で 薬剤では骨吸収抑制剤であるビスホスホネート製剤に高い効果のあることが認められています。

(はじめに)

関節リウマチの患者さんでは骨折のリスク(危険度)が高く、関節リウマチでない人に比べて 大腿骨近位部骨折は 1.51倍、骨盤骨折は 2.56 倍に増加しています。関節リウマチの活動性が高い場合、活動性低下に陥り、その結果 筋力低下がおこり転倒しやすくなるのが一因と思われますが、骨粗鬆症の合併により さらに骨折リスクは高まります。関節リウマチと骨粗鬆症は密接な関係があり、関節リウマチの患者さんは年齢に関係なく骨粗鬆症になりやすいことがわかっています。このため関節リウマチの患者さんでは合併する骨粗鬆症の診断・治療が重要な課題となっています。

(骨粗鬆症とは)

骨は体を支え、カルシウムの貯蔵庫として働いています。骨は固く、一度発育したら変化がないように見えますが、実は絶えず骨を壊す細胞(破骨細胞)により古い骨は壊され、骨を作る細胞(骨芽細胞)により新しく作られています。「骨が壊される過程-骨吸収」と「骨が作られる過程-骨形成」が絶えず繰り返されることを「骨のリモデリング」と言います。このリモデリングのサイクルが何らかの理由でおかしくなり、骨が作られる速度よりも 骨が壊される速度が速くなり 骨量(骨密度)が減少して骨がもろくなった状態を骨粗鬆症と言います。この結果、骨の変形、骨の痛み、さらには骨折をおこします。
骨折による痛みや障害はもちろんのこと、大腿骨近位部や脊椎椎体の骨折は高齢者の寝たきりにつながり、QOL(生活の質)を著しく低下させます。腰背部痛の30%は骨粗鬆症が原因です。

骨粗鬆症は「原発性骨粗鬆症」と「続発性骨粗鬆症」に分類されます。「原発性骨粗鬆症」は原因不明の骨粗鬆症のことで加齢や閉経後に見られ、骨粗鬆症の90%を占めます。「続発性骨粗鬆症」は原因が明らかな骨粗鬆症のことです。原因としては副甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、糖尿病、慢性腎臓病などの様な疾患やステロイド剤投与による薬剤性のものなどがあります。

(原発性骨粗鬆症の診断)

原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)によると、

  1. 椎体または大腿骨近位部に脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折(※)を認めるか、その他(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、橈骨遠位部、下腿骨)の脆弱性骨折があり骨密度が若年成人平均値の80%未満である
  2. 脆弱性骨折はないが骨密度が若年成人平均値の70%以下である
  3. 1.2.のいずれかを満たすものを原発性骨粗鬆症と診断するとされています。

※脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折とは わずかな外力で生じたと考えられる非外傷性骨折のことです。

tp140414

(骨粗鬆症の治療の目的)

骨粗鬆症治療の目的は骨折の危険性を抑制し、QOL(生活の質)の維持改善をはかることです。
骨粗鬆症による骨折は大腿骨近位部骨折のみならず、椎体骨折においても著明なADL(日常生活動作)・QOL低下と死亡リスクの増大につながることが明らかになっています。このため骨折の予防という観点から骨粗鬆症の治療が必要なのです。薬物療法の進歩で骨粗鬆症の骨折の危険性をある程度低下させることが可能になりました。しかし、現状の薬物治療には効果に限界があり骨強度の低下により骨折の危険性が増大していることが明らかな例において、その危険性をせいぜい30~50%低下させるに過ぎないということを十分理解しておくことが必要です。骨粗鬆症によって増大した骨折の危険性を低下させ健全な骨を維持するという目的のためには薬物療法だけでは十分ではありません。栄養、運動などを含め、骨強度を維持・増加させる生活習慣を確立するとともに、転倒などの骨折危険因子を回避する様な生活習慣をすすめることも重要なことです。

(骨粗鬆症の薬物療法)

「2011年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」では原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準が見直されたことが重要な変更点です。つまり 薬物治療の目的が骨粗鬆性骨折の予防である ことを最初に明記し、「脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折または椎体骨折)がある」患者は新たな骨折発生の危険性が上昇することから、骨密度測定の結果を問わず薬物治療を検討することとしました。大腿骨近位部骨折または椎体骨折以外の脆弱性骨折がある患者についても骨密度が若年成人平均値(YAM)の80%未満であれば薬物治療を検討するとしています。

骨粗鬆症の治療薬としては ①腸管からのカルシウム吸収量を増やす薬 ②骨形成を助ける薬 ③骨吸収(骨を壊す)を抑える薬 の3つが主に使用されます。

活性型ビタミンD3製剤-アルファカルシドール(アルファロール® ,ワンアルファ®)、 カルシトリオール(ロカルトロール®)、エルデカルシトール(エディロール®)など

カルシウムをいくら摂取しても腸管から吸収されなければ意味がありません。カルシウムの吸収にはビタミンDが関わっており、日光に当たることでビタミンDは合成されます。ビタミンDは肝臓や腎臓で活性型ビタミンD3となり、小腸のビタミンD受容体に働くことでカルシウム吸収が促されます。2011年に発売されたエルデカルシトールは従来の活性型ビタミンD3より骨への作用が強化されており、骨密度の改善、椎体骨折の予防効果が強くなったのが特徴です。

ビタミンK2製剤-メナテトレノン(グラケー®)

ビタミンK2は骨芽細胞に作用することで骨形成を促進します。

ビスホスホネート製剤-エチドロネート(ダイドロネル®),アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®)、リセドロネート(アクトネル®、ベネット®)、ミノドロン酸(ボノテオ®、リカルボン®)など

ビスホスホネートは骨に取り込まれた後に 破骨細胞に取り込まれて 破骨細胞を機能不全にさせることにより骨吸収(骨を壊す)を抑えます。その結果 骨密度の上昇、骨折抑制効果を発揮し、高いエビデンス(※)もあります。
ビスホスホネート製剤は 腸管からの薬物吸収が悪いため「起床後すぐに服用し、その後30分は横になったり水以外を飲んだり食べたりしてはいけない」などの制限が付いたため、服用を継続できない人がいました。このためアレンドロネート、リセドロネート、ミノドロン酸は 月1回服用で済む製剤も発売されています。しかし 食道炎や胃・十二指腸潰瘍の人には使えないという欠点がありました。そこで 2012年にアレンドロネートの点滴静注製剤(ボナロン点滴静注バッグ900μgR)が発売され、さらに2013年には新しいビスホスホネート製剤であるイバンドロ酸ナトリウム水和物の静注製剤(ボンビバR静注)が発売されました。いずれも月1回の投与でよく、経口剤のような服用時の制約もないため、継続しやすい薬剤であることが期待できます。
その他の副作用として抜歯などの際の顎骨壊死や長期服用時の 大腿骨転子下・骨幹部骨折が報告されていますので注意して使用すべきことはもちろんですが、これらの副作用の発生率はきわめて低いので ビスホスホネート製剤の骨折抑制効果に対する 高いエビデンスが重視され臨床現場では最も使用されています。


※エビデンスとは 実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」 のこと

選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM) ―ラロキシフェン(エビスタ®)、バゼドキシフェン(ビビアント®)

女性ホルモンの1つであるエストロゲンは骨吸収抑制作用を示しますが、乳がんなどの発がん性があることがあることが知られています。そのため 乳房のエストロゲン受容体には作用せず、骨のエストロゲン受容体にのみ作用すれば発がん性を気にせず使用することができます。このように骨のエストロゲン受容体に対して選択的に作用する薬剤が選択的エストロゲンモジュレーター(SERM)です。ビスホスホネート製剤のように服用時間の制限はありませんが、閉経後の女性のみが適応です。
骨密度上昇や椎体骨折抑制効果に対するエビデンスはありますが、大腿骨近位部骨折を抑制するというエビデンスはまだありません。

副甲状腺ホルモン(PTH) 製剤―テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)

副甲状腺ホルモンの誘導体で フォルテオ®は20μgを毎日、テリボン®は56.5μgを週1回皮下注射で使用します。
副甲状腺機能亢進症で副甲状腺ホルモンの分泌が亢進すると骨吸収が促進され骨粗鬆症となります。つまり副甲状腺ホルモンは骨を壊し骨の量を減少させるホルモンだと主に考えられていました。ところが副甲状腺ホルモンには骨を吸収する一方で、強力に骨形成を促進する作用があるのです。つまり 副甲状腺機能亢進症の様に持続的に血液中の副甲状腺ホルモンの濃度が高い状態では骨は吸収されて減少する状態(骨粗鬆症)に向かいますが、たとえばフォルテオ®の投与の様に24時間ごとに間欠的に副甲状腺ホルモン濃度を上昇させると、今度は強力に骨形成が促進され 骨密度は増加する方向に向かうことがわかりました。そこで骨形成促進剤として副甲状腺ホルモンの誘導体を使用するという考えが生まれました。毎日投与でも週1回投与でも効果は変わりません。骨密度の上昇、椎体骨折・非椎体骨折の抑制効果に対して高いエビデンスがあります。大腿骨近位部骨折を抑制するというエビデンスはまだありません。

テリパラチドはいわゆる第一選択薬ではありません。ビスホスホネート、SERM などの治療でも骨折を生じた例、高齢で複数の椎体骨折や大腿骨近位部骨折を生じた例、骨密度低下が著しい例などで使用が勧められています。

抗RANKL抗体薬-プラリア皮下注®

2013年6月に発売された皮下注射薬で 骨吸収に関与する破骨細胞の形成と活性化を行うタンパク質であるRANKL(ランクル)を阻害するのが抗RANKL抗体薬です。6カ月に1回の皮下注射でよいのが特徴です。主成分であるデノスマブはRANKLに対するモノクローナル抗体であり、選択的にRANKLを抑制して破骨細胞の働きを抑えます。その結果、骨吸収が遮断され、骨粗鬆症を治療することができると考えられています。

カテプシンK 阻害剤

破骨細胞による骨吸収に関与する酵素であるカテプシンK を阻害する抗体製剤が近日中に発売予定です。

スクレロスチン阻害剤

骨細胞から産生され骨形成を抑制するタンパク質であるスクレロスチンを阻害する抗スクレロスチン抗体製剤が新たな骨形成促進剤として開発中です。

(関節リウマチに伴う骨粗鬆症の分類)

①関節炎が起きている関節周辺の骨粗鬆症

原因としてもっとも重要なのは炎症のある関節で作られる IL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインと言われる物質です。これらの物質は骨を壊す破骨細胞の数を増やし働きを高める RANKL という物質を誘導することにより骨粗鬆症を引き起こします。炎症関節の障害による痛みや筋力低下による「不動」や閉経も関節周囲の骨粗鬆症に関与します。

②全身性骨粗鬆症

原因として 閉経、不動、関節リウマチ治療薬(ステロイド)があげられます。

関節リウマチ治療薬による骨粗鬆症とは

関節リウマチの治療は近年、メトトレキサート(MTX)を中心とする抗リウマチ薬と生物学的製剤が主体となっています。MTXは関節リウマチでの少量使用では骨への影響はなく、むしろ好ましい方向に働くと考えられています。生物学的製剤の中ではインフリキシマブ(レミケード®)のみが骨密度上昇のエビデンスがありますが、他の生物学的製剤も同様の機序で効果が期待できます。

関節リウマチ治療薬の中ではステロイド剤のみが明らかに骨粗鬆症をひきおこします。ステロイドは骨芽細胞を傷害して骨形成を抑制、破骨細胞の生存を持続させて骨吸収を促進します。

ステロイド性骨粗鬆症とは経口ステロイドを長期に服用している人がかかりやすい骨粗鬆症です。ステロイド性骨粗鬆症の特徴として骨密度の低下よりも骨の強度低下に伴う骨折リスクが大きいということがあります。そのため骨密度低下が著しくないのに骨折することも少なくありません。

1日の経口ステロイドの服用量が増えると脊椎椎体骨折のリスクも高くなりますが、服用量が少ないからリスクがなく、安心ということはありません。ステロイドの量としてプレドニゾロンに換算して1日 2.5 mg 未満の服用でも椎体骨折リスクは1.55 倍、1日7.5 mg以上では 5 倍以上、大腿骨近位部骨折も2倍以上になります(日本代謝学会「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」2004年度版から)。

ステロイド性骨粗鬆症の治療は骨折リスクの高い症例を治療対象にするようにわが国では「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン(2004年度版)」が用いられています。

内容は

経口ステロイドを3ヶ月以上使用中で脆弱性骨折を認める場合は直ちに薬物療法を開始する

脆弱性骨折を認めない場合でも、骨密度測定で若年成人平均値(YAM)の80%未満かプレドニゾロン換算で5mg以上服用中の場合は薬物治療を開始する

第一選択の薬剤はビスホスホネート製剤とする

という内容で脆弱性骨折の有無、骨密度、ステロイド薬平均投与量を骨折リスク上昇の因子として検討し、骨折リスクの高い順に治療へ導入されるよう重み付けしたものです。

(関節リウマチに合併した骨粗鬆症の診断・治療方針)

診断はステロイド使用例を除き、原発性骨粗鬆症の診断基準が用いられてきました。
診断においてDXAによる骨密度測定は骨粗鬆症の診断において重要な検査ですが、ステロイド薬が使われていることがある関節リウマチでは骨密度が正常でも骨強度が低下していることがあるので注意が必要です。

治療では、まず 関節リウマチの疾患活動性のコントロールが最も重要です。T2Tの原則に従い、早期の寛解を目指します(関節リウマチの治療目標とは-2011.05.07 Topics参照)。
関節リウマチに合併した骨粗鬆症に対する薬剤の骨折防止効果を検証した大規模な報告は未だありません。
関節リウマチでは炎症性サイトカインにより骨吸収が亢進しており、経口ステロイド剤が併用されている場合があることを考慮すると骨吸収抑制作用のあるビスホスホネート系の薬剤を使用するのが理にかなっています。現在、骨粗鬆症治療薬の中で関節リウマチに合併した骨粗鬆症による骨折抑制効果に対するエビデンスが確認されているのは ビスホスホネート系の薬剤のみです。抗RANKL抗体薬は発売されて間もないので エビデンスはないのですが、強力な骨吸収抑制作用があるので効果が期待されます。

関節リウマチに合併した骨粗鬆症の明確な治療開始基準はありませんが、経口ステロイド投与例を除き、先に述べた「2011年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」の基準が用いられて来ました。経口ステロイドを併用している場合には「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン(2004年度版)」を参考にして 骨折リスクが高い場合にはビスホスホネート製剤を積極的に使用し、場合によっては PTH製剤や抗RANKL抗体薬の使用も考慮すべきと思われます。

関節リウマチに合併した骨粗鬆症では 続発性骨粗鬆症の原因となる糖尿病、慢性腎臓病、肺疾患、アルコール多飲などがないか確認しておくことも必要です。
(2014.04.14)

非ステロイド性抗炎症薬( NSAIDs, 痛み止めとして処方される薬 )による胃腸障害について

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は痛み止めとして関節リウマチの治療において使用されることの多い薬剤です。副作用として最も多いのが上部消化管病変で 特に胃・十二指腸潰瘍が問題となっています。NSAIDs による潰瘍の予防には ①プロスタグランジン(PG)製剤 ②高用量のファモチジン ③プロトンポンプ阻害薬(PPI) のみが有効とされています。しかし NSAIDs の長期の漫然な使用には十分に注意を払う必要があります。

(はじめに)

非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs, NSAIDsと略し「エヌセイド」と読む)とは抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。
変形性関節症や関節リウマチなどの痛みに対し、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が痛み止めとして処方される機会は多く、多くの医療機関においては第一選択肢となっています。日本国内における胃・十二指腸潰瘍の死亡者数は毎年 約3,500 人との報告があり、そのほとんどがNSAIDsによるものと推察されています。一方、米国における調査では、NSAIDs投与を受けた患者 1,300 万人のうち毎年 10万7,000人が入院し、1万6,500人がNSAIDsによる消化管合併症で亡くなっています。さらにNSAIDsによる死亡者数は、白血病、エイズについで多く、悪性腫瘍よりもNSAIDsによる消化管出血で死亡する患者数の方が多く、処方頻度の多いNSAIDsの漫然な使用には注意を払う必要があるとされています。

A.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による上部消化管障害

1991年の日本リウマチ財団委員会報告では 3ヶ月以上NSAIDsを使用した1,008例の関節リウマチ(RA)患者の 62.3 %に何らかの上部消化管(胃・十二指腸)病変がみられ、その主なものは 胃潰瘍が 15.5 %, 十二指腸潰瘍が 1.9 %, 胃炎が 38.5 % で 何らかの病変がみられた患者のうち実に 54.9 % は無症状でした。この頻度は一般人を対象とした同時期の日本消化器集団検診学会統計のそれと比較して明らかに高率となっています。

潰瘍発症の危険因子として ①高齢 ②潰瘍の既往がある ③ステロイド剤を併用している ④高用量あるいは複数のNSAIDsの使用 ⑤抗凝固療法の併用 ⑥重篤な全身疾患の合併 が挙げられます。

特に 最近多くなった心臓疾患に対する低用量アスピリンによる抗凝固療法の併用は 消化性潰瘍の発生を2倍以上に増加させるという報告があります。

(治療と予防)

2007年に発表された「EBM に基づく胃潰瘍診療ガイドライン(第2版)」によると

①NSAIDsは可能ならば中止し、通常の潰瘍治療を行う

②NSAIDsの中止が不可能ならば プロトンポンプ阻害薬( PPI ; タケプロン®、オメプラール®、オメプラゾン®、ネキシウム®、パリエット®)、あるいはプロスタグランジン(PG)製剤(サイトテック®)による治療を行う

③NSAIDs継続下での再発防止にはプロトンポンプ阻害薬、PG製剤あるいは高用量のH2受容体拮抗薬(ファモチジン、ガスター®)を用い、低用量アスピリン投与下での再発防止にはプロトンポンプ阻害剤を用いることが推奨されています。同時に従来のNSAIDsを 上部消化管病変の発生の少ないことが示されている選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ、セレコックス®)に変更することも勧められています。

海外ではNSAIDs潰瘍による出血や穿孔などの重篤な合併症に対して プロトンポンプ阻害剤(PPI)による予防的治療が勧められています。これまでの検討からNSAIDs潰瘍の発生を予防できる薬剤は PPI、 PG製剤、高用量のファモチジンとされています。日本では2010年から一部のPPIがNSAIDs潰瘍の再発予防に健康保険適用となりました。

最近では潰瘍の既往があったり、腎機能低下のある人に対してはNSAIDs でなく、鎮痛解熱剤に分類され 消化管・腎障害がほとんどないとされているアセトアミノフェン(カロナール®)が用いられるようになりました。またモルヒネ様作用を有するオピオイド系鎮痛剤(トラムセット®、トラマール®)が慢性疼痛に対して使用できるようになり、従来の鎮痛剤で効果のない場合ばかりでなく、潰瘍の既往や腎機能障害のある人の鎮痛にも有効な薬剤となりました(2013.10.20 の Topics, 関節リウマチと腎障害の項 参照)。

B.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による下部消化管障害

近年、下部消化管(小腸・大腸)内視鏡検査の進歩によりNSAIDsは胃・十二指腸のみならず小腸や大腸にも潰瘍などの粘膜病変をおこすことが明らかになりました。しかし、NSAIDs下部消化管障害に関する疫学データはなく、最近になってやっとカプセル内視鏡を用いた検討が行われるようになり、NSAIDs投与後の小腸粘膜障害の発生率が 70 % にも達することや選択的COX-2阻害剤が病変の発生を有意に抑えることも報告されています。
治療は原因薬剤の中止・減量です。しかし 予防薬も含め 上部消化管病変に比べて分かっていないことが多いので今後の研究が待たれます。
(2013.12.17)

topi05-2

関節リウマチと腎機能障害について

関節リウマチでは 治療のために多くの薬物を使用しますので、投与された薬物を体の外に排泄する腎臓の機能は非常に重要です。腎臓の機能が低下すると 投与された薬物が体外に排泄されにくくなり、薬物の作用が強く出たり、副作用が出やすくなったりして 治療の継続が困難になる恐れがあります。投与された薬剤によっておこる薬剤性腎障害もありますので定期的に血液検査、尿検査をうけて 早期に腎障害を発見することが重要です。腎機能の評価には 推算糸球体濾過値( eGFR )が重要視されています

関節リウマチでは治療のために多くの薬物が使用されます。人体に投与された薬物は最終的に体の外に排泄されます。この排泄機構としては 主に「糞中排泄」と「尿中排泄」があります。つまり「便と一緒に排泄されるか」と「尿と一緒に排泄されるか」の2通りです。
糞中から排泄されるということは、肝臓によって薬物の代謝(分解)や消化管への排泄(胆汁排泄)が行われていることを意味します。この様に 薬物の排泄には肝臓が大きく関わっています。
それと同じように薬物は「尿と一緒に排泄される」という排泄機構がありますが、尿は腎臓で作られていますので薬物の排泄には腎臓も大きく関わっています。
腎臓は「肝臓によって薬物が代謝された物質」と「肝臓で代謝されていない未変化の薬物」の両方を尿とともに体外へ排泄します。このため肝臓や腎臓の機能が低下していると薬物が体外に排泄されにくくなり、その結果 薬物の体内(血液中)の濃度が高まり、薬物の作用が強く出すぎたり、副作用が出やすくなったりする可能性が大となります。
多くの薬物の投与をうけている関節リウマチの患者さんでは定期的に血液検査や尿検査を行って 肝・腎機能を調べておくことが必要です。そして 肝・腎機能が落ちている患者さんでは「薬物の投与量を減らす」などの対策が必要です。

( 関節リウマチに合併する腎障害について )

関節リウマチに合併する腎障害としては メサンギウム増殖性腎炎がありますが、軽度な場合が多く、臨床的に高度な腎障害をおこして問題となるのは ①腎アミロイドーシス と ②関節リウマチ治療薬による薬剤性の腎障害 です。

① 腎アミロイドーシス

関節リウマチによる慢性炎症が持続することで血清アミロイドAタンパク(SAA) という物質が肝臓で産生され、このタンパクの分解物がアミロイド線維として腎臓に沈着し、腎機能障害をひきおこします(他の臓器にも沈着して色々な障害をおこすことが知られています)。10年以上の長期罹患の人で発症が多いとされ、炎症のコントロールが不十分であることが要因となります。発症するとネフローゼ症候群だけでなく、腎機能も低下し、透析が必要になり、腎予後は極めて不良です。
ところが 近年 関節リウマチ治療薬の進歩がみられ、メトトレキサート(MTX) が治療に導入されたことで アミロイドーシスの合併が徐々に減少し、また種々の生物学的製剤が使用されるようになったことから合併はさらに減少傾向を示しています。なかでもトシリズマブ(アクテムラR)はインターロイキン6 (IL-6) の生物学的作用を抑えることにより肝臓でのSAA の産生を抑制することが分かっており、アミロイドーシスの治療薬として期待されています。またトシリズマブ投与による腎アミロイドーシスの腎機能の改善例も報告されています。

② 薬剤性腎障害

薬剤性腎障害の原因となるのは a) 抗リウマチ薬 と b) 非ステロイド性抗炎症薬Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs, 略して NSAIDs、いわゆる痛みどめとして処方される薬 ) が主なものです。

a) 抗リウマチ薬による腎障害

腎障害をおこす頻度の高い薬剤として 金チオリンゴ酸ナトリウム(シオゾール®)、ブシラミン(リマチル錠®)、D-ペニシラミン(メタルカプターゼ®) などが有名です。
特に ブシラミン(リマチル錠®)による腎症は代表的で使用開始から1年以内にタンパク尿の出現を認め、膜性腎症を発症し、ネフローゼ症候群を来すことも少なくありません。多くの場合、早期に発見し、薬剤を中止することで改善しますので 添付文書に記載されている通りに ( Topics 2013.04.12の項 参照 )、月1回の尿検査は必須です。
近年使用されることが多くなったタクロリムス(プログラフR)は輸入細動脈の収縮により 腎血流の低下をひきおこし、腎機能の低下を招くことがありますので特に高齢者には注意が必要です。

b) 非ステロイド性抗炎症薬 ( NSAIDs , ボルタレン®、ロキソニン®、クリノリル®、インフリーS®、ニフラン®、ブルフェン®など痛み止めとして処方される薬すべて)による腎障害

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がひきおこす腎障害の発生機序として腎でのプロスタグランジン(PG)合成の抑制が主であると考えられています。
腎でのPGの働きは腎の血管を拡張させ、腎血流を増大させることですので NSAIDsにより PG産生が抑制されると腎血管が収縮し、腎血流が低下して腎機能が低下します。このため 腎疾患がすでにある人や高齢者で腎機能が低下している人へのNSAIDsの使用は注意が必要で、 漫然と長期にわたって使用することは さらに腎機能低下を加速することにつながりますので避けなければなりません。どうしてもNSAIDs の使用が必要な場合には作用時間の短いNSAIDs を用量を減らして使用するなどの工夫が必要です。

最近では腎機能低下のある人に対してはNSAIDs でなく、鎮痛解熱剤に分類され 腎障害がほとんどないとされているアセトアミノフェン(カロナール®)が用いられるようになりました。米国では1996年にNational Kidney Foundation (国立腎臓財団)、米国老年医学会が慢性腎臓病(CKD)患者や高齢者の痛みに対して鎮痛剤を使用する際はアセトアミノフェンを選択することを推奨しました。我が国の緩和医療でも腎障害患者ではNSAIDs でなくアセトアミノフェンが優先して用いられています。
またモルヒネ様作用を有するオピオイド系鎮痛剤が慢性疼痛に対して使用できるようになり、従来の鎮痛剤で効果のない場合や腎機能障害のある人の鎮痛に有効な薬剤となりました。

( 自分の腎機能を簡単に知る方法 )

腎臓はさまざまな働きをしていますが、最も重要なのは体内を流れる血液をフィルターの役目をしている糸球体で濾過してきれいにするとともに 血液から取り除いた老廃物を尿として排出することです。
腎臓の機能を示すのは GFR(糸球体濾過量の略)で フィルターの役目を果たす糸球体が 1分間にどのくらいの血液を濾過し、尿を作れるかを表します
腎機能が低下すると体内で作られたゴミ(クレアチニンや尿素窒素など)を尿中に捨てることができなくなるため体内に蓄積するようになり、これを反映して血液検査ではクレアチニンや尿素窒素(BUN) が高い値になります。
真の GFRを求めるためには 糸球体から直接 濾液(原尿)を採取する必要があり、大変困難です。
そこで最近、血清クレアチニン値と年齢、性別から簡単に GFRを求める計算式(推算GFR、 eGFR )が日本腎臓学会から提唱されました。

egfr

と難しい計算となっていますが、インターネットで「eGFR 計算 」を検索するか、以下のサイトを開くと簡単に計算ができます。

LinkIcon腎臓の働き(GFR)を推算

下の様な表が出てきますので 性別、年齢、クレアチニン値を記入するだけで eGFR が表示されます。

年齢とクレアチニン値は、半角数字で入力して下さい。

健常者のeGFRは 100 mL/分 前後で、腎機能障害が進行するとともに、また加齢により低下して行きます。血清クレアチニンが正常値でも腎機能が正常とは限りません

慢性腎臓病(CKD)診療ガイドでは腎機能の重症度(病期)評価には eGFR値を重要な指標として用いています。

ckdstage

(2013.10.20)

新しい経口抗リウマチ薬(トファシチニブ、ゼルヤンツ®)の日本での発売日が2013年7月30日に決まりました

新しい経口抗リウマチ薬(トファシチニブ、ゼルヤンツ®)の発売は関節リウマチの患者さんにとって治療薬の選択肢が1つ増えたという朗報ですが、現状では長期の使用成績がないので副作用という点で不安があり、慎重な投与・経過観察が必要な薬剤とされています

2013年2月18日のTopicsで新しい経口抗リウマチ薬(トファシチニブ、ゼルヤンツ®)の発売前情報をお伝えしましたが、日本での発売が 2013年7月30日に決定しました。一番気になっていた薬価ですが、予想通り高く、1錠 2,539円で1日の使用量が2錠なので1日薬価は 5,078円、さらに 1ヶ月分の薬価は152,340円と高額になり生物学的製剤とほぼ同じ額となりました。

これまで抗リウマチ剤に関しては 日本での発売は海外よりかなり遅く、「関節リウマチの治療の根幹をなす薬剤」とされているメトトレキサート(MTX、リウマトレックス®カプセル、メトトレキサート錠®)が11年, 日本初の生物学的製剤 インフリキシマブ(レミケード®)は5年アメリカに遅れての発売でした。

ところが 発売が遅れるということは問題も大きいのですが、その反面 長期にわたる副作用の情報も蓄積されて 安全な使用に役立つというメリットもあるのです。
しかし今回のトファシチニブ(ゼルヤンツ®)に関しては 海外とほぼ同時期の発売のため 長期に使用した場合の副作用に関するデータがありません。

この様な点を懸念した日本リウマチ学会の宮坂信之理事長は、抗リウマチ剤のトファシチニブ(ゼルヤンツ®)が3月25日に製造販売承認を得たことを受け、声明を発表しました。学会は、本剤による重篤感染症や発癌のリスクを懸念しており、適正使用がなされるかどうか、厳しくモニタリングしていく考えを表明しています。

トファシチニブに関しては、米国食品薬品局(FDA)も「用量依存的な重篤感染症、長期暴露時の発癌、免疫抑制に伴うリンパ増殖性疾患のリスクがある」と注意を促しています。学会が懸念しているのは、「安全性に問題のある薬剤を、米国よりも広い適用、同量で承認すること」「経口薬で処方しやすく、使用施設や医師の限定が難しいこと」「従来の市販後全例調査と同じ方法では発癌リスクが評価しづらいこと」などの点で 2月20日付けで製造販売会社のファイザーに慎重な対応を求める要望書を提出していました。

この要望に対してファイザーは、学会の主な懸念4点につきどう対応するかを詳細に説明した文書を3月14日付けで返信しています。その内容は 他の抗リウマチ薬にはない「メトトレキサート®をはじめとする少なくとも1剤による適切な治療でも症状が残る場合」という条件を設定し、さらに、添付文書の警告欄に「重篤な感染症や発癌が発現し、致死的な転帰に至った症例がある」と記載することになりました。全例調査期間の処方は日本リウマチ学会専門医などに限定し、流通管理品目として納入制限を行う考えも明らかにしました。また、全例調査は4000人を対象に3年にわたり実施。2000人の対象群を設けて比較調査を行い、投与中止例についても3年間の追跡調査を行うというものです。
(2013.07.16)

医薬品副作用被害救済制度について

関節リウマチの治療においては多くの薬物が使用されますので それによる副作用も当然あり得ます。しかし薬物が適正に使用され定期的に診察や検査を受けていれば、多くの副作用は十分に防止でき、万一おこったとしても早期に対処が可能で 重症化することは少ないと思われます。もし 不幸にして重篤な副作用がおこってしまった場合には 医薬品副作用被害救済制度を利用することができます

1.救済制度の目的

医薬品は今日、医療上必要不可欠なものとして国民の生命・健康の保持増進に大きく貢献していることは言うまでもありません。他方、医薬品は有効性と安全性のバランスの上に成り立っているものであり、副作用の予見可能性には限度があることなど医薬品のもつ特殊性から、その使用にあたって万全の注意を払ってもなお発生する副作用を完全に防止することは、現在の科学水準をもってしても非常に困難であるとされています。
またこれらの副作用による健康被害について、民法ではその賠償責任を追及することが難しく、たとえ追求することができても多大な労力と時間を費やさなければなりません。
医薬品副作用被害救済制度は 法律(医薬品医療機器総合機構法)に基づく公的な制度で 医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用に対して被害者の迅速な救済を図ることを目的としたものです。

2.制度の対象となる健康被害と給付の種類

医薬品(病院、診療所で処方されたものの他に 薬局で購入した市販薬も含まれます。但し 抗がん剤と免疫抑制剤は対象外です)を適正に使用したにもかかわらず、一定レベル以上の健康被害が生じた場合に医療費等の諸給付を行うものです。
対象となる健康被害とは入院を必要とする程度の疾病や日常生活が著しく制限される程度の障害、および死亡です。
薬剤の「適正な使用」の具体例は後に述べます。

3.給付の請求

医療費の給付の請求は健康被害を受けた本人(または遺族)が、請求書と医師の診断書などを医薬品医療機器総合機構(PMDA)に送付することにより行うことになっています。

4.医学的薬学的な判定

PMDAでは給付の請求があった健康被害について その健康被害が医薬品の副作用によるものか、医薬品が適正に使用されたかどうかなどの医学的薬学的判断について厚生労働大臣に判定の申し出を行い、厚生労働大臣は医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの判定の申し出に応じ、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)に意見を聴いて判定を行うこととされています。

5.給付の決定

PMDAは 厚生労働大臣による医学的薬学的判定に基づいて 給付の支給の可否を決定します。

6.関節リウマチの薬物治療と副作用について

関節リウマチの発症から2年間ぐらいが最も関節破壊の進行が早いことがわかっています。関節リウマチの治療目標は、関節破壊の阻止と日常生活を正常に維持することです。このためには早期に診断をつけて 治療効果が優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤を使用し、厳密な疾患コントロールを行い、寛解を目指すことが重要です(T2T―Topics 2011.05.07の項 参照)。

薬物治療を行う以上、副作用の問題は避けて通ることはできません。しかし 適正な使用が行われ、定期の診察と検査を受けていれば 副作用は十分に防止でき、万一おこったとしても早期に対処が可能で重症化することは少ないと思われます。もし不幸にして重篤な副作用が起こってしまった場合には公的な「医薬品副作用被害救済制度」を利用することができます。

関節リウマチの治療においては まれな副作用を恐れるあまり、発症から早期の重要な時期に治療効果の優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤の使用を拒否して治療のタイミングを逃し、関節破壊を進行させてしまうことが重大な問題と思われます。主治医から薬剤に関する十分な説明を受けて不安を取り除くことが重要です。

薬剤の「適切な使用」とは原則的には 医薬品の容器あるいは添付文書に記載されている用法・用量および使用上の注意に従って使用されること が基本となります。

関節リウマチで使用されることの多い薬剤について添付文書から用法・用量および使用上の注意を抜粋してみます(全てではありませんので注意)

セレコックス錠®(鎮痛剤)

  • 成人には1回100~200mgを1日2回
  • アスピリン喘息およびその既往のある患者、消化性潰瘍のある患者、重篤な腎障害、
  • 重篤な心不全のある患者には使用不可
  • 腎障害のある患者またはその既往歴のある患者は腎障害の悪化または再発のおそれあり

リマチル錠®(抗リウマチ剤)

  • 成人には1日100~300mg
  • 血液障害のある患者、骨髄機能の低下している患者、腎障害のある患者には使用不可
  • 骨髄機能低下やネフローゼ症候群などの重篤な腎障害をおこすことがあるので毎月1回
    血液および尿検査等の臨床検査を行うこと

③アザルフィジンEN錠®(抗リウマチ剤)

  • 成人には1日 1000mg まで
  • 定期的に(投与開始後最初の3ヶ月間は2週間に1回、次の3ヶ月間は4週間に1回、その後は3ヶ月ごとに1回)、血液学的検査および肝機能検査を行うこと。 また
    腎機能検査についても定期的に行うこと

④ブレディニン錠50mg®(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1日150mg
  • 骨髄機能抑制のある患者、細菌・ウイルス・真菌等の感染症を合併している患者、腎障害のある患者には慎重投与
  • 血液、肝機能、腎機能検査を頻回に行う

⑤プログラフカプセル0.5mg,1.0mg®(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1日3mg
  • シクロスポリンとは併用不可
  • 腎障害の発現頻度が高いので、頻回に腎機能検査を行うこと
  • 高カリウム血症や高血糖の発現があるので頻回に検査を行うこと
  • 高血圧が発現することがあるので定期的に血圧測定を行うこと
  • 感染症の発現・増悪に注意
  • B型肝炎ウイルスの再活性化による肝炎やC型肝炎の悪化が見られることあり

⑥メトトレキサート錠2mg®、リウマトレックスカプセル2mg®(MTX)(抗リウマチ剤)

  • 関節リウマチに対しては1週間の投与量は16mg(8錠または8カプセル)まで
  • 間質性肺炎、肺線維症があらわれ呼吸不全にいたることがあるので、投与前に胸部レントゲンで肺疾患の有無を確認し、投与開始後は発熱、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状発現には十分注意する。また 患者に対し、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状が現れた場合には直ちに連絡するよう注意を与えること
  • 結核の既感染者は本剤投与により結核が再燃することがあるので、投与前に十分な検査を行い、結核感染の有無を確認すること
  • B型、C型肝炎ウイルスキャリアの患者に対する投与により 重篤な肝炎、肝障害が出現し、死亡例も報告されている。また本剤投与終了後にB型肝炎ウイルスが活性化することによる肝炎の発現も報告されている。B型又はC型肝炎ウイルスキャリアの患者に対し本剤を投与する場合、投与期間中及び投与終了後は継続して肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うこと
  • 骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)や重篤な肝障害の現れることがあるので4週間ごとに血液検査・肝機能検査を行うこと
  • 腎機能が低下している場合は副作用が強く現れることがあるので本剤投与前および投与中は腎機能検査を行うこと
    (2013.04.12)

新しい抗リウマチ薬 トファシチニブ(tofacitinib)について

新しい抗リウマチ薬 トファシチニブ(JAK阻害剤)は メトトレキサート(MTX) 併用のもとで生物学的製剤であるアダリムマブ(ヒュミラR)と同等の効果のあることが報告されており、発売されれば 患者さんにとって治療の選択肢が増えることが期待されます

2012年12月14日にアメリカリウマチ学会(ACR)から届いたHOTLINE NEWSによりますと 米国食品医薬品局(FDA) は 11月6日 米国ファイザー社のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬( Topics 2011.09.12 を参照 )である 「トファシチニブ(米国の商品名: XELJANZ )」 を世界で初めて承認しました。

適応はメトトレキサート (MTX) で効果不十分または効果が見られない 中等度から重度の関節リウマチです。

JAK 阻害薬は 炎症性サイトカイン( TNF, IL-1, IL-6 ) が生物活性を発揮するために必要なシグナル伝達系であるチロシンキナーゼの JAKを特異的に阻害する 分子量 312.4 の低分子化合物で、経口投与が可能(注射でない)な抗リウマチ薬としては全く新しいクラスとなります。

多くの生物学的製剤と同様に MTXや他の抗リウマチ剤と併用して使用することが可能であるばかりでなく、単剤としての使用も可能です。しかし 生物学的製剤やアザチオプリン、シクロスポリンなどの強力な免疫抑制薬との併用は認められていません。

アメリカでの承認前の臨床治験の結果は ① 既存の抗リウマチ剤あるいは生物学的製剤に効果不十分な人々に対して単剤での使用 ② MTX に効果不十分な人々に対して MTX との併用 ③ 生物学的製剤(TNF阻害)で効果不十分な人々に対して MTXとの併用 のいずれの試験においても プラセボ(新薬などの医薬品に、本当に効果があるのかを実験する際に使う偽薬のこと)群に比べて有意な改善が認められました。

有害事象(薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない, あるいは意図しない徴候,症状,または病気)は 生物学的製剤と共通するものが多く、最も多く見られた重篤な有害事象は 重症の感染症で この頻度は既存の生物学的製剤と変わりませんでした。 最も多く報告された有害事象は 上気道感染症、頭痛、下痢、鼻咽頭炎でした。また 生物学的製剤に比べて 帯状疱疹の発生頻度が多かったという報告もあります。

使用量は 5mg を 1日2回 経口投与となっています。

最も気になる価格ですが ACR によると 1カ月(30日)分で 2055.13ドル(日本円1ドル93円として 19万1127円!)で生物学的製剤と同様にかなり高価なのが気になります。日本での薬価もほぼ同じぐらいと考えてよいでしょう。

その他、 2012年のアメリカの医学雑誌The New England Journal of Medicine にメトトレキサート(MTX)を投与されている関節リウマチの患者717人を3群に分け、トファシチニブ、生物学的製剤のアダリムマブ(ヒュミラ®)、プラセボをそれぞれ追加投与した所、投与後6カ月の時点で トファシチニブの有効性は プラセボより有意に優れ、生物学的製剤のアダリムマブと数値的に同程度であったという報告が掲載されました。
関節リウマチは全世界で 約 2370万人いるとされています。既存の治療薬は複数ありますが、治療効果が十分でない患者さんも少なからずいます。実際に患者さんの1/3では治療が十分に奏効せず、さらに約半数は 5年以内に特定の抗リウマチ剤に反応しなくなるという報告があります。依然として更なる治療薬の登場が望まれています。

日本でも 近日中に製造承認がおりて 2013年内にも販売されると予想されています。患者さんにとって また治療の選択肢が1つ増えたわけですが、薬価が高ければ生物学的製剤と同様に本当に必要な人々に適切な時期に使用することができないのではないかというのが 懸念されるところです。
(2013.02.18)

関節リウマチの予後予測因子とは

関節リウマチの関節破壊の予後予測因子として 初診時の レントゲン上の関節破壊の程度、リウマトイド因子陽性(高値)、抗CCP抗体陽性、CRP高値、血清MMP-3 高値 が重要です。これらの因子を持つ場合は 早期から強力に関節リウマチの炎症を制御する治療法を用いて厳密な疾患コントロールを行う必要があります

関節リウマチの治療目標は 関節破壊の阻止と日常生活動作を正常に維持することです。その目標達成のためには できるだけ早期に診断をつけて積極的に強力な治療を行うことに尽きるとされています。つまり 治療効果が優れているという証拠(エビデンス)のある薬剤を使用し、厳密な疾患コントロールを行い、寛解を目指します( Treat To Target, T2T ― Topics 2011.05.07 の項 参照 )。
しかし 関節リウマチの病態自体は均一であっても進行にはかなりの個人差があることが知られています。したがって すべての人に「副作用の可能性をを伴う強力な治療を早期から行う必要性があるか」ということを十分に考慮しなくてはなりません。そこで 関節破壊の進行が早いハイリスク群を選び出して その人たちにのみ強力な治療を行う傾向が出てきています。この際に必要とされる情報が「予後予測因子」と言われるものです。

A)患者背景で関節リウマチの予後を予測しうる因子

①性、発症年齢

女性は男性に比べて関節予後が不良であると言われています。また 高齢(60歳以上)で発症した関節リウマチの方が発症時の活動性が高く、予後不良の傾向があります。

B)初診時から経過中に関節リウマチの予後を予測しうる因子

①発症から治療開始までの時間経過

関節リウマチの発症から2年間ぐらいが最も関節破壊の進行が早いことがわかっていますので、初診時までの期間、リウマチ専門医を訪れるまでの期間、抗リウマチ薬の投与を開始されるまでの期間が長いほど 関節破壊の進行が早いという報告があります。

②初診時の身体所見

初診時の疾患活動性が10年後の予後と関係するとの報告が多くあります。 特に初診時に腫脹関節数が多い、疼痛関節数が多い、リウマトイド結節があるなどは予後不良とされています。

③初診時の関節レントゲン所見

初診時のレントゲン上の関節破壊の程度は初診後 12ヶ月、24ヶ月目の程度とよく相関することが示されています。

④血液検査所見

血清リウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体、MMP-3、CRP が重要な予後予測因子とされています。

リウマトイド因子

予後予測因子の中では最も重要であるとする報告が多く見られます。リウマトイド因子陽性例では陰性例に比べて関節破壊が12年間で 3.3 倍早いという報告があり、さらに リウマトイド因子の値が高値である程 関節破壊の進行が早いという報告もあります。

抗CCP抗体(anticycllic citrullinated peptide antibody)

抗CCP抗体は関節リウマチの診断に有用で2010年のACR/EULARの新診断基準にも採用されています(Topics 2010.10.12 の項 参照)。
さらに抗CCP抗体陽性例は陰性例に比べて関節破壊が進行しやすいという報告が多く見られています。
そして抗CCP抗体とリウマトイド因子の組み合わせが早期関節リウマチにおいて 最も正確に予後予測を行いうるという報告もあります。

炎症の指標(CRP、赤沈)

CRPや赤沈値は炎症の指標として最も優れており、関節リウマチの活動性を反映する指標として用いられています。一定期間のCRPや赤沈の積分値がその6ヶ月後の関節破壊の進展を正確に予測するという報告があり、予後予測因子としても重要です。

MMP-3(マトリックス メタロプロテアーゼ-3)

最近 特に注目されている血清マーカーです。MMP-3は 関節の中にある線維芽細胞、滑膜細胞や軟骨細胞から分泌される蛋白分解酵素で関節リウマチの早期から血液中で検出されます。MMP-3の値は滑膜炎の程度と比例して上昇するので関節リウマチの活動性を反映する指標として有用です。
またリウマトイド因子と比べて関節リウマチに対する感度・特異性とも優れており、早期関節リウマチの診断にも有用です。
さらに 早期関節リウマチ(発症から1年以内)の経過観察において血清MMP-3が治療経過中に上昇または高値を維持した症例は関節破壊が進行し、一方 低下または低値を維持した症例は進行しない傾向が認められたという研究結果が報告されました。さらに MMP-3の値はその検査後、6ヶ月、12ヶ月の関節破壊とも相関することが複数の研究で明らかとなっています。このことから血清MMP-3は関節リウマチにおいて重要な予後予測因子であることが明らかになって来ました。

(2012.12.28)

関節リウマチ診療における超音波検査(関節エコー)の有用性について

関節超音波検査は、既存の関節リウマチの評価法の弱点を補完し、より早期の診断、より正確な病態の評価を可能とすることが期待されます

近年 関節リウマチ(RA) の治療は劇的に変化し、画像診断法も大きく変化しました。関節破壊の進行を阻止する手段が乏しかった時代はレントゲン写真を用いて 既に関節破壊をきたした RA を診断し、進行を確認するのみでしたが、MRI 検査や超音波検査が活用されるようになった結果、より早期の診断、そしてより正確な活動性評価に必要な情報を画像所見から得ることが可能となりました。なかでも超音波検査は 外来でも簡便に行うことが可能で欧州はもとより日本でも急速に広まりつつある臨床診断技術です。

超音波検査の有用性

① 関節リウマチの早期診断ならびに他の疾患との鑑別

最近の研究で RA は発症から 2 年以内の早期にメトトレキサート(MTX) を基本薬とし、必要に応じて生物学的製剤を用いることにより30~50 % の人に臨床的寛解(RAによる痛み・腫れがなく、炎症所見がない状態)が得られることが明らかになり、早期診断の重要性が強調されるようになりました。このためアメリカリウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)の新RA診断基準が 2010 年に発表されました(2010.10.12 の項 参照)。その中でも症状のある関節の評価手段として医師の診察手技による関節所見に加えて超音波検査および MRI があげられています。

超音波検査は医師による診察手技と比べて滑膜炎(関節の炎症)の検出に優れており、また骨びらんの検出においてもレントゲン写真より検出感度が高いため、より早期に RAの診断を可能とする場合があります。さらに超音波検査は他の疾患との鑑別にも有用とされています。

② 正確な 関節リウマチの活動性の評価

現在 RA の疾患活動性評価には主に DAS 28, SDAI, CDAI が用いられています(2011.05.07 の項 参照)。これらは 関節所見(痛み・腫れ)、赤沈値(CRP)、患者および医師の全般評価を組み合わせたものですが、医師や患者の主観的判断に依存する項目が含まれているために「活動性の評価」の再現性に問題があり、客観性に乏しいという指摘があります。

現実に 実際の診療においては関節所見の不明確な症例、あるいは症状・関節所見・検査所見の間に大きな解離(ひらき)の見られる症例が少なからずあり、治療方針に迷うことも多くあります。

また RA は臨床的寛解に至った後にも局所の関節において炎症が残存し、これにより関節破壊が進行することが明らかになりました。

超音波検査は RA の病態の中心である滑膜炎を直接見ることが可能で、その活動性の客観的な判断にも有用であるとされています。すなわち診察手技ではとらえられないような潜在性の滑膜炎を見つけて 適切な治療を行うことも可能となっています。

③患者本人の病態に対する理解度 および 患者―医師間の信頼関係の向上

超音波検査は医師と共に関節の画像を見ながらリアルタイムで説明を受けることが可能であるので 患者本人の病態に対する理解度が向上し、さらには 患者―医師間の信頼関係の構築にもつながります。そして病状に対して共通の認識を持つことにより 治療の導入、変更がスムーズに行えるという利点もあります。

(2012.08.02)

※写真は東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センターホームページより引用