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関節リウマチで MTXや生物学的製剤・ JAK 阻害剤の投与を受けている人は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかりやすいのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック地域におけるリウマチ性疾患患者に対するCOVID-19の影響を詳細に調査した研究はありませんでした。免疫系に作用する生物学的製剤、JAK阻害剤の使用は感染症に対するリスクがやや高まることが指摘されています。そこでこれらの薬剤を投与されている人々が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかりやすくなることが不安視されていました。最近、Arthritis and Rheumatology, October 2020 にパンデミック地域であるイタリアのロンバルディア州における初の詳細な調査の結果が発表されましたので紹介します。

 

Favalli E.G., et al. Incidence of COVID-19 in Patients With Rheumatic Diseases Treated With Targeted Immunosuppressive Drugs: What Can We Learn From Observational Data? Arthritis Rheum 2020; 72:1600 – 1606.

 

(研究の目的)

この研究の目的は合成抗リウマチ薬(csDMARDs)または生物学的製剤(Biologic DMARDs)、JAK阻害剤(Targeted synthetic DMARDs)で治療されたリウマチ性疾患の患者における新型コロナ感染症(COVID-19)の発生率と重症度を同じイタリアのロンバルディア州に住む一般住民と比較することです。

(研究の方法)

研究の対象は2020年2月25日から4月10日までの間イタリア、ロンバルディア州の2つの病院で治療された 18 歳以上、平均年齢 53.7歳のリウマチ性疾患(関節リウマチ 531人、乾癬性関節炎 203人、脊椎関節炎 181人、その他の疾患 40人)、合計 955人です( Table 1 )。

最終的な分析は対象となる合成抗リウマチ剤(csDMARDs)、生物学的製剤、JAK阻害剤で少なくとも6カ月以上(平均 13.9年)治療されたロンバルディア州に住む患者に限定されました。比較となる一般住民は18歳以上(平均 51.4歳)のロンバルディア州居住人が選ばれました。COVID-19の診断には鼻咽頭ぬぐい液を採取し、PCR検査が行われました。

(結果)

対象となるリウマチ性疾患患者の55.8%が 抗TNF系生物学的製剤による治療を受けていました。さらに対象患者の47.3%が生物学的製剤のみで治療を受けていました( Table 1 )。

リウマチ性疾患の患者群の中からCOVID-19が6人発症し、そのうち3人は関節リウマチ、2人は乾癬性関節炎、1人はサルコイドーシスでした。これらのCOVID-19患者のうち5人は抗TNF系生物学的製剤を投与されており、その内訳はエタネルセプト3人、アダリムマブ 1人、インフリキシマブ 1人でした。残りの 1人は非TNF系生物学的製剤アバタセプトを投与されていました。また生物学的製剤のみ投与されていたのは 2人で 4人は MTX(2人)、レフルノミド( 1人)、スルファサラジン( 1人)が併用されていました。

重度の COVID-19肺炎をおこしたり、死亡した患者はいませんでした。酸素吸入が必要で入院したのは3人でした。COVID-19と診断されたすべての患者は投与されていた合成抗リウマチ剤(csDMARDs)や生物学的製剤、JAK阻害剤による治療を一時中止されました。それによる疾患の再燃は2人のみに見られました。

COVID-19の発生率は患者群が 0.62 %で 対象となる一般住民が 0.66 %でほぼ一致しました。重症度にも差はありませんでした。

( COVID-19パンデミックに対する患者の対処法 )( Table 2 )

リウマチ性疾患対象患者の 36 %が COVID-19のパンデミックに際し、リウマチ性疾患を管理する方法を調べていました。情報源はリウマチ専門医 77.8 %、インターネット 11.3 %、一般開業医 8.1 %などでした。

ほぼすべての患者(90.6%)は流行から身を守るための特別な予防策を講じており、66.9%は保健当局の推奨事項を厳守していました。自宅隔離は患者の 45.9 %、フェイスマスク着用は 57.2 %、ソーシャルディスタンスは 68.1 %が守っていました。さらに患者の 70.4 %が仕事の休止または遠隔作業に移行していました。患者の 6.8 %のみが現在の治療薬を中断または減量していました。治療薬を中断または減量した患者のうち 2.7 %は感染に対する恐れのためで 4.1%は感染を示唆する症状があったためです。リウマチ性疾患は 89.5 %で安定しており、5.1 %で改善し、悪化が見られたのは 5.4 %でした。悪化のうち27.3%が治療の中止によるものでした。

(考察、結論)

この研究はCOVID-19のパンデミックがおこっている地域の合成抗リウマチ剤(csDMARDs)、生物学的製剤、JAK阻害剤を使用中のリウマチ性疾患患者に対するCOVID-19の影響を詳細に調査した最初の研究です。

COVID-19の流行中に治療薬を減量したり、中止した患者はごく少数でした。このため対象患者の 89.5 %で良好な管理が維持され、5.4 %の患者で再燃が見られました。再燃した患者のうち27.3%が治療の中止によるものでした。

リウマチ性疾患の患者における 合成抗リウマチ剤(csDMARDs)、生物学的製剤、JAK阻害剤の使用は COVID-19の流行地域においても一般住民と比較してCOVID-19発症率と重症度には差がなく、安全であることがわかりました。そして多くの人がリウマチ性疾患の計画的な長期治療を継続したことで COVID-19のパンデミック下においても疾患の悪化がおさえられていました。このような良好な結果が得られたのは感染予防のためのガイドラインを多くの人が守っていたということも重要なポイントです。

 

 

 

 

( 2020.12.27)

関節リウマチの患者は重篤な感染症にかかりやすいのか?— MTXや生物学的製剤との関連は?

 

 

関節リウマチ患者は重篤な感染症にかかりやすいことがかなり前から指摘されていました。併用薬としてのステロイドホルモンは最も感染症のリスクを高めることがわかって来ました。関節リウマチ患者の約 80 %に使用され、治療の標準薬になっているメトトレキサート(MTX)は許容量の範囲内の使用では感染症のリスクにならないという多くの報告があります。また最近処方されるようになってきた生物学的製剤やJAK 阻害剤は感染症に対するリスクをやや高め、最も多い肺炎は高齢者、ステロイド使用、糖尿病、既存の肺病変という条件が重なるとさらに発症のリスクが高まることがわかって来ました。

 

関節リウマチ患者において 重篤な感染リスクが一般人に比べて2倍以上高いことが 50年前にすでに示唆されていました[1,4]が、免疫系に作用する抗リウマチ剤が登場するに至り そのリスクはどうなって来たのでしょうか? メトトレキサート(MTX) 、生物学的製剤、JAK阻害剤の使用は感染症にかかるリスクをさらに高めるのでしょうか?

関節リウマチの免疫系の異常は感染微生物に対する防御の弱体化に影響を及ぼすことが示唆されています[3,4]。さらに合併する糖尿病や慢性肺疾患、関節リウマチに関連する機能障害、喫煙なども患者の感染リスクを高めることがわかっています[4]。

 

(併用薬の感染症に対するリスク)表1.参照

①ステロイド剤

ステロイド剤は併用薬の中で最も大きなリスクがあり[3,7,8,9]、肺炎に関して言えば プレドニゾロンの肺炎リスクは非使用者の 1.7 倍で使用量が増えるほど増加し、10 mg 以上では最大 4.3 倍まで増加します[7]。

②合成抗リウマチ剤 (csDMARDs)

スルファサラジン(アザルフィジン®)やブシラミン(リマチル®)では感染リスクは上がらないが、レフルノミド(アラバ®)ではやや肺炎に対するリスクがあります ( 1.3 倍)[7]。

メトトレキサート( MTX ) は現在関節リウマチ治療の標準薬とされ約 80 % の患者で使用されていますが、許容量の範囲では有意な感染リスクの上昇はないという報告が多く見られます[5,7,8,9]。

②生物学的製剤( TNF 系、非 TNF 系 )

関節リウマチの感染症の代表として呼吸器感染症があげられます。関節リウマチには 30 ~ 40 % に気管支拡張症が合併します。これはかなりの高頻度であり 関節リウマチの関節外病変と言ってもよいくらいです。この合併頻度は一般人口に比べて 10 ~ 20 倍以上です。気管支拡張症があると肺炎、結核、インフルエンザにかかりやすいことが明らかになっています[5]。

日本で2002年に初めての生物学的製剤が発売されて以来、関節リウマチの治療に劇的な変化がおこりました。しかし生物学的製剤は微生物の感染防御に重要な働きをするマクロファージや好中球の働きを抑えるので感染症のリスクがやや上昇します ( 1.2 ~ 0.8 倍 )[7] 。特に使用開始後1年以内や高用量での使用でとくにリスクが上昇するとされています[5,9]。しかしTNF系生物学的製剤では有意なリスクがあったという報告[6]がある一方で 非TNF系では有意なリスクの上昇はなかったという報告[2]があり、生物学的製剤全体の重篤な感染症リスクについては結果は一定ではありません。

生物学的製剤使用中の死因として最も多いのは肺炎で、一般人との比較では約4倍の頻度です。生物学的製剤使用時の肺炎併発のリスクとして高齢者、ステロイド使用、糖尿病や気管支拡張症などの既存の肺疾患の合併があげられています[3,7,8]。患者がより高用量のステロイド剤を必要とする場合は感染のリスクはかなり上昇します。したがって生物学的製剤とステロイド剤の併用は慎重にすべきで、高齢者や合併症の危険因子を持つ場合は避けるべきとされています[7]。

インフルエンザの流行する時期では続発性肺炎の原因菌としては肺炎球菌が多く、2015 年のアメリカリウマチ学会( ACR )の治療ガイドライン[10]では抗リウマチ薬使用前および治療中に肺炎球菌ワクチン(特に PCV 13 ワクチン、ブレベナー13®)やインフルエンザワクチン接種を推奨しています。

③ JAK 阻害剤

現在 日本で関節リウマチに適応がある JAK 阻害剤は 5種類あります。感染リスクは生物学的製剤と同等かやや低いとされています。しかし帯状疱疹に関しては有意に多いとされ、注意が必要です[11]。2018年に認可された帯状疱疹サブユニットワクチン(シングリックス®)は不活化ワクチンであるため生物学的製剤や JAK阻害剤を使用中の患者にも安全に使用することができ接種が勧められています。

 

(生物学的製剤やJAK阻害剤の使用で注意しておくべき特殊な感染症)

A. 抗酸菌症―主な抗酸菌には結核菌と非結核性抗酸菌があります。

① 結核

生物学的製剤とくにTNF阻害作用薬は結核菌に対する肉芽腫形成を阻害するので 初の生物学的製剤であるインフリキシマブが導入された当初、結核の発症が問題になりました。しかし使用前に潜在性肺結核(結核が感染しても発病していない状態)を発見することの重要性が認識され、使用前から抗結核薬による予防投与が広く行われるようになった結果、生物製剤使用後の結核発症は激減しました。現段階ではJAK 阻害剤も生物学的製剤と同様の結核に対する配慮をすべきとされています。

② 非結核性抗酸菌症 ( NTM )

生物学的製剤や JAK 阻害剤使用で問題になる抗酸菌症に非結核性抗酸菌症 ( NTM ) があります。なかでもMAC症は中高年女性に多く発症するため 関節リウマチの罹患年齢層と重なり、胸部レントゲン上 関節リウマチに伴う細気管支病変との鑑別が難しいことが問題になります。関節リウマチ患者で活動性の非結核性抗酸菌症が合併した場合には生物学的製剤の使用は禁忌とされています。

B. ニューモシスチス肺炎

ニューモシスチス・イロベチイという真菌の一種によっておこる肺炎です。生物学的製剤の投与開始後 3 ~ 6ヶ月以内の発症が多く、高齢者・既存の肺疾患・プレドニゾロン換算6 mg 以上のステロイド剤使用がリスク因子とされています。早期に発見・治療すれば予後は良好ですが、リスク因子を持つ場合は予防薬(ST 合剤 )の投与がすすめられています。

 

 

表.1  併用薬ごとの感染症リスク(Hazard ratioとは統計学上の用語で相対的な危険度を客観的に表す数値です。右側のAdjusted Hazard ratioが重要で 年齢、性別、およびHAQ、肺疾患、糖尿病、心筋梗塞、DMARDまたは生物学的薬剤の数、RA期間、これまでの喫煙、教育カテゴリー、安全登録メンバーシップ、およびプレドニゾン使用量で補正した危険度です)。文献 7から引用画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 8ec8e9cb8631ad458d799d0d4c16224d.png一番左の欄が薬剤名で上から すべての量のプレドニゾロン、プレドニゾロンなし、プレドニゾロン5mg以下、プレドニゾロン>5-10mg、プレドニゾロン>10mg、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、スルファサラジン、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ

 

(参考文献)

  1. Baum J. : Infection in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 14: 135 – 137, 1971
  2. Campbell L., et al. : Risk of adverse events including serious infections in rheumatoid arthritis patients treated with tocilizumab: a systematic literature review and meta-analysis of randomized controlled trials.  Rheumatology( Oxford ) 50 : 552 -562, 2011
  3. Doran M.F., et al. : Predictors of infection in rheumatoid arthritis.  Arthritis Rheum. 46: 2294 – 2300, 2002
  4. Doran M.F., et al. : Frequency of infection in patients with rheumatoid arthrisis compared with controls : a population – based study. Arthritis Rheum. 46: 2287 – 2293, 2002
  5. Galloway J.B., et al. : Anti-TNF therapy is associated with an increased risk of serious infections in patients with rheumatoid arthritis especially in the first 6 months of treatment : updated results from the British Society for Rheumatology Biologics Register with special emphasis on  risks in the elderly. Rheumatology ( Oxford ) 50 : 124 – 131, 2011
  6. Michaud T.L. , et al. : Comparative safety of tumor necrosis factor  inhibitors in rheumatoid arthritis: A meta-analysis update of 44 trials.  Am J Med. 127: 1208 – 1232, 2014
  7. Wolfe F., et al.:Treatment for rheumatoid arthritis and the risk of  hospitalization for pneumonia : Associations with prednisolone, disease – modify ing antirheumatic drugs, and anti-tumor necrosis factor therapy.   Arthritis Rheum. 54 : 628 -634, 2006
  8. 松本 篤、松井利浩:関節リウマチ患者における重症感染症リスク因子の検討。 J. Clin. Immunol. 38 ( 2 ) 109 – 115, 2015
  9. 渡辺 彰:生物学的製剤と感染症・化学療法。日本化学療法学会雑誌 65(No.4) : 568 – 576, 2017 
  10. Singh J.A., et al. : 2015 American College of Rheumatology Guideline for the Treatment of Rheumatoid Arthritis . Arthritis Rheumatol. 68(1): 1 – 26, 2016
  11. Bechman K., et al. : A systematic review and meta-analysis of infection risk with small molecule JAK inhibitors in rheumatoid arthritis.  Rheumatology (Oxford) 58 (10) : 1755 – 1766, 2019

 

( 2020. 12. 21 )

 

ACPA(抗CCP抗体)陽性だが、無症状で関節リウマチを発症していない人はこれからどうなっていくのか?

 

ACPA(抗CCP抗体)は関節リウマチの診断に重要な役割を果たすことがわかっていますが、症状がなく関節リウマチを発症していないのにACPAが陽性の人がどのくらいの割合で将来関節リウマチを発症するかということは あまりわかっていませんでした。しかし2019年のArthritis Care & Researchに ACPA陽性だが関節リウマチを発症していない人が将来関節リウマチへ進行するリスクを調査した論文が掲載されました。この内容を紹介しましょう。

研究はアメリカ合衆国の2009年から2018年の3次医療システムのデータを用いて一定期間追跡調査が行われました。具体的には関節リウマチやその他のリウマチ性疾患がないACPA陽性の人を選び出し、ACPA陽性時の診療記録を調べました。関節リウマチへの進行・診断の時期は医療記録の内容から決定されました。そして関節リウマチへの進行のリスクを調べ、ACPAレベルで分類しました。

ACPAレベルは正常の上限の1~2倍を低レベル、2~3倍を中レベル、3倍以上を高レベルとしました。

関節リウマチを発症していない無症状のACPA陽性の対象 340人を追跡調査した結果、73人(21.5 %)が関節リウマチを発症していました。関節リウマチへの進行リスクはACPAレベルとともに増加し、高レベルのACPAを持つ人の 46 %は 5年で関節リウマチを発症していました。低レベルのACPAレベルと比較して 中および高ACPAレベルは関節リウマチの発症と強く関連していました。

以上のことから 関節リウマチを発症していない無症状のACPA陽性の患者では   ACPAレベルの上昇に伴い関節リウマチの発症リスクが大幅に上昇していることがわかりました。

この研究から無症状のACPA陽性の人は将来の関節リウマチの発症について綿密な経過観察が必要であり、このような人々が関節リウマチを発症しないような予防策の解明が今後の課題です。

 

(参考文献)

Julia A. Ford , et.al. Impact of Cyclic Citrullinated Peptide Antibody Level on Progression to Rheumatoid Arthritis in Clinically Tested Cyclic Citrullinated Peptide Antibody – Positive Patients Without Rheumatoid Arthritis. Arthritis Care & Research  2019 ; 71 : 1583 – 1592.
 
(2020.09.24)

RF( リウマトイド因子 )およびACPA( 抗CCP抗体 )の意味をあらためて考える ー 最近わかってきたこと

 

RF( リウマトイド因子 )は関節リウマチに感度が高い一方で特異度が低いという欠点があります。ACPA( 抗CCP抗体 )はRFと同程度の感度がありながら、特異度が高い抗体です。

関節症状(痛み、はれ)を有する場合は両者ともRAの早期診断には有用であるが、無症状の場合は RFのみ陽性の意義は乏しいとされます。一方で RF, ACPAともに陽性の場合は無症状であっても近い将来のRA発症を強く示唆する所見です。

最近の研究でACPA陽性の関節リウマチの発症には喫煙と歯周病という環境因子の関与が指摘されています。さらにACPAそのものにも病原性があることが明らかになりつつあります。

 

定期健康診断(人間ドック)でRF( リウマトイド因子 )の陽性を指摘され、「私は関節リウマチなのでしょうか」と不安で来院される方がいます。このような不安をかかえないためにも再度、RF( リウマトイド因子 )そして関節リウマチの診断に欠かせないACPA( 抗CCP抗体 )について その意義を確認しておきましょう( 2010.12.12のトピックスも参照してください)。

①RF(リウマトイド因子)

RFは免疫グロブリンのFc領域に対する自己抗体です。関節リウマチ患者におけるRF陽性率は70~85%と高く、長年診断におけるもっとも重要な血液検査とされて来ました。しかし 一方では特異度(関節リウマチではない患者群における陰性率)が40~90%と低いのが問題です。RF陽性となる疾患は全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群をはじめとする膠原病、感染性心内膜炎やウイルス感染などの感染症、悪性腫瘍などです(表1)。また健常人の 5%が陽性です。さらに加齢とともに陽性率は上昇し、高齢者では陽性率が 10%を超えるという報告もあります。

 

②ACPA(抗CCP抗体)

ACPAは関節リウマチに対して70~80%の陽性率で特異度は97%と高く、関節リウマチ診断には有用です。RFより陽性率は低いが他の膠原病や感染症で陽性になります。また結核の時には高率に陽性化しやすい( 34.3% )ので注意が必要です(表2)。健常人でも1.7%が陽性です。

 

③一般検診の結果からみた RF, ACPAの意義

日本において一般人を対象とした健康診断時にRFとACPAを同時に測定した1万1758人中、RF陽性は1271人( 10.8% ), ACPA陽性は154人( 1.3% ),  RF・ACPAともに陽性は98人( 0.8% )で RF, ACPAともに高年齢層で陽性率が高くなる傾向が見られました。

これらの陽性者を平均17ヶ月追跡調査した結果、初診時および経過中に関節リウマチと診断された割合はRF単独陽性者の 0.9%、ACPA単独陽性者の 10%、RF・ACPA両陽性者の 30.8%でした。海外の報告でも同様の結果です。

この結果より健康診断において無症状でRF単独陽性の場合は病的意義は乏しいことがほとんどですが、RF・ACPAともに陽性なら無症状であっても将来の関節リウマチ発症の強い予測因子と考えられています。しかし実際の健康診断ではRFのみの測定がほとんどなのでRFが陽性ならばACPAを追加測定することが必要です。

 

最近わかってきたACPAの臨床的意義

ACPAは関節リウマチの診断に必須の検査ですが、関節リウマチの病態にも関係していることが最近わかってきました。

#1. ACPA陽性の関節リウマチの発症にかかわる環境因子として喫煙と歯周病が指摘されています。

非喫煙者と喫煙者(現在、過去を含む)で分類すると有意に喫煙者でACPA高値陽性率が高いことがわかりました。また歯周病の重症度を4段階に階層化すると歯周病の重症度とACPA陽性率がきれいに相関しました(図1)。

 

#2. ACPAそのものに病原性がある。

ACPA陽性関節リウマチは ACPA陰性関節リウマチと比較して骨破壊が強いという報告があります。また動物実験でACPAの投与による関節炎の悪化やACPAの破骨細胞活性化作用、さらに破骨細胞を介した痛みの惹起作用なども報告され、ACPAそのものの病原性も推測されています。

図1 健常人におけるACPAとRF産生におよぼす喫煙と歯周病の影響

           A: 喫煙者、非喫煙者におけるACPA高力価(2+)またはRF高力価(2+)の頻度

           B: 歯周病の重症度を4段階に階層化し、それぞれのACPA陽性率, RF 陽性率を示した

 

 

(参考文献)

1. Miriam A. Shelef. New Relationships for Old Autoantibodies in Rheumatoid Arthritis.  Arthritis Rheumatol,  71:1396-1399, 2019.

2. 大村浩一郎:医学のあゆみ、258:927-931,2016.

3. 六反田 諒:日本医事新報、35-39,2017.

 

(2020.02.10)

 

骨粗鬆症の治療において骨の質(骨質)を評価することの重要性について

骨の強度を決定する因子として骨の質(骨質)が注目されるようになりました。骨質を決めるのは骨の単位体積あたり50%をしめるコラーゲンの分子どうしを結び付けて鉄筋の梁(はり)の役目をする「架橋」です。架橋には善玉と悪玉(AGEs)があり、悪玉が増えると骨の強度が低下して骨折しやすくなります。骨粗鬆症の治療にあたっては骨リモデリング(骨形成と骨吸収)を制御するだけでなく、骨芽細胞機能を高めて善玉コラーゲン架橋形成が行われるようにする必要があります。また、悪玉であるAGEs架橋を増やす生活習慣病の十分なコントロールを行う必要もあります。

 

骨粗鬆症とは「骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患である」と定義されます(2000年NIHコンセンサス)。以前のTopics(2014.4.14)でも述べたように 骨では骨を壊す細胞(破骨細胞)により古い骨は壊され(骨吸収)、骨を作る細胞(骨芽細胞)により新しく作られています(骨形成)。骨吸収と骨形成は絶えずくりかえされており、これを「骨のリモデリング」と言います。骨粗鬆症では「骨のリモデリング」に異常がおこり 骨形成より骨吸収が上まわっていると考えられています。

加齢に伴う性ホルモンの減少は骨吸収優位の骨リモデリングを引き起こすことが知られています。この結果 骨密度の低下がおこってきます。このような骨吸収優位の骨密度の低下に由来する骨強度の低下は骨吸収抑制薬により効率よく改善することがわかっています。しかし、薬物治療により骨吸収が抑制され骨密度が上昇しても、あるいは骨密度がもともと正常なのに骨折リスクが低減しない(骨折しやすい)患者さんがいることがわかってきました。こうした事実は「骨リモデリング」とは独立した別個の機序で骨強度を規定する因子が存在することを示しています。これが「骨質因子」と言われるもので近年注目されて来ました。

     骨強度 = 骨密度( 70 % ) + 骨質 ( 30 % )

                                  (2000年NIH コンセンサス会議のステートメントより)

で表されるように骨の強度には 骨密度が 70 %、骨質が 30 % 関与しています。骨密度を決めるものはカルシウム量ですが、骨質を決めるものは単位体積当たり50 %をも占めるコラーゲンです。コラーゲンの質は骨リモデリングとは独立した機序で変化します。そして単位体積当たり半分を占めるコラーゲンの質は骨強度に直接的な影響をおよぼします。骨におけるコラーゲンの質に重要な役割を果たすのはコラーゲン分子を結び付ける「架橋」です。つまり骨を鉄筋コンクリートの柱とすると梁(はり)に相当するものがコラーゲン分子どうしを結び付ける「架橋」でコンクリートに相当するものが「骨塩」です。骨密度測定はコンクリートの状態を見ているだけであって 梁(はり)がさびて劣化して柱がもろくなっているかどうかを調べることはできません(図1)。

 

(図1)骨と鉄筋の構造 (YOMIURI ONLINEより転載)

したがって 現在の骨粗鬆症治療において骨吸収が抑制されて骨密度が上昇しても骨折リスクが減らないことがあるのは「骨質の劣化」ということで説明することができます。

 コラーゲン分子同士を結び付ける架橋には ①酵素依存性架橋(生理的なもので善玉架橋)と②AGEs( Advanced Glycation Endproducts )架橋(悪玉架橋)があり、悪玉架橋であるAGEs架橋が増加することにより 骨の強度が低下します(図2,3)。

 

(図2)骨のコラーゲン架橋の種類 (斉藤 充, CLINICIAN 2006 より)

  (図3)骨のコラーゲン架橋のイメージ図       

 

AGEs架橋が増加するのは 性ホルモンの減少、加齢、糖尿病や腎不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、動脈硬化などの生活習慣病の合併が原因とされています。

AGEs架橋が増加しているかどうかをみるためには 尿中のペントシジンという物質の量を測定するのが有効とされ、簡単に測定できるキットが開発中です。

骨質を改善する薬剤は骨芽細胞機能を活性化する副甲状腺ホルモン(PTH)製剤のほかに選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)やビタミンD製剤なども有効とされますが、 まだ長期のデーターがなく結論が出ていません。

骨粗鬆症の治療にあたっては骨リモデリング(骨形成と骨吸収)を制御するだけでなく、骨芽細胞機能を高めて善玉コラーゲン架橋形成が行われるようにする必要があります。また、悪玉であるAGEs架橋を増やす生活習慣病の十分なコントロールを行う必要もあります。

(参考文献)

Saito M, Marumo K : Collagen cross-links as a determinant of bone quality : a possible explanation for bone  fragility in aging. osteoporosis, and diabetes mellitus. Osteoporosis Int  21 : 195-214, 2010

Saito M, Marumo K : Effects of collagen crosslinking on bone material properties in health and disease. Calcif Tissue Int  97 : 242-261, 2015

 斎藤 充、丸毛 啓史 :骨質劣化の機序 CLINICAL CALCIUM  27(No.8) : 1075-1087, 2017

 斎藤 充、丸毛 啓史 : 骨質評価の最新知見 Medical Practice  35(No.11) : 1741-1744, 2018

 

(2019.06.27)

関節リウマチの治療と妊娠について

かつては挙児希望の活動性関節リウマチ(RA)の女性は治療と妊娠のどちらを優先するか選択を迫られた時期がありました。 RA の標準治療薬となっているメトトレキサート(MTX)は催奇形性があるため妊娠計画の少なくとも 3 ヶ月前から中止して妊娠および授乳中の使用を避けなければなりません。このため妊娠を計画する時や妊娠・授乳中に関節炎が悪化して関節破壊と機能障害が進行してしまうことがありました。
最近 生物学的製剤(TNF 阻害薬)が普及して それを用いた RA 治療中の妊娠に関するデータが蓄積されつつありますが、流産・先天異常の発生率増加はないことから 投与を継続しながら妊娠を成功に導ける可能性が示されています。 また産後に RA が再燃して育児が困難になったり 次の妊娠をあきらめる患者さんもいます。しかし生物学的製剤(TNF阻害薬)は母乳への分泌も少なく 児毒性も認められていないことから 産後に関節炎が悪化した RA 女性でも有用な治療手段のひとつになりうると考えられています。

関節リウマチ(RA)は妊娠可能な年齢である 30~50 歳の女性に好発する疾患です。日本では第 1 子の平均出産年齢は 30 歳を超えており、今後は RA 発症後に結婚・妊娠を考える女性が増加すると予想されています。近年、 RA の治療は生物学的製剤が登場したことにより格段の進歩をとげました。 T2T という治療戦略で RA の予後も改善しつつあります(2011.05.11 の TOPICS 参照)。ゆえに挙児希望の RA 女性では治療と妊娠・出産の両立が今後ますます重要な課題になると考えられます。

1.関節リウマチが妊娠や児に与える影響

①RA では妊孕性(にんようせい/妊娠する力)が低下

アメリカやデンマークで実施された大規模調査によると RA 女性における妊孕性の低下が明らかになりました。

②RA 女性の妊孕性低下に関連する要因

高疾患活動性(不妊の頻度が寛解の人に比べて約 2 倍)、高用量のステロイド服用、 NSAIDs 服用、個人の選択(妊娠や育児に対する不安から妊娠を制限)が要因として挙げられていますが、喫煙・RA の罹病期間・リウマトイド因子陽性・抗 CCP 抗体陽性、サラゾスルファピリジン使用歴・MTX 使用歴は妊孕性低下と関連ないという結果でした。

③RA が児におよぼす影響

RA では早産・胎児発育遅延の頻度が高いという報告があります。さらにこれは重症の RA やステロイド治療を受けている女性に多いという傾向があります。RA 自体は児の先天異常に関連がありません。

Brouwer,J.,et al.:Fertility in women with rheumatoid arthritis:influence of disease activity and medication. Ann Rheum Dis.15:2014-2053,2014

舟久保ゆう:関節リウマチの治療と妊娠の両立 。 Jpn.J.Clin.Immunol,38(1)45-56,2015

Bowden,A.P.,et al.:Women with inflammatory polyarthritis have babies of lower birth weight. J.Rheumatol.28:355-359,2001

2.妊娠が RA に与える影響

メカニズムはわかっていませんが、 40~90%ぐらいの患者で妊娠中に関節症状が改善し 出産後 40~90%ぐらいの患者で関節症状が悪化していました。

Ostensen,M.,et al.:A prospective study of pregnant patients with rheumatoid arthritis and ankylosing spondylitis using validated clinical instruments. Ann Rheu Dis.63:1212-1217,2004

3.RA 治療薬が妊娠・児におよぼす影響

RA の治療薬として 非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)、抗リウマチ薬(DMARD)、 生物学的製剤、ステロイ ドなど多彩な薬剤が使用されることから 妊娠や児におよぼす影響が懸念されます。 薬の児への影響は催奇形性(妊娠初期、 14 週未満) と胎児毒性(妊娠中期以降) とに分けて考えます。 新生児の 100 人に 3 人は生まれながらに異常を持って生まれて来るといわれています。 つまり母親が妊娠中 薬を服用せず、 放射線も浴びず、 病気をしなくても 3%ぐらいは自然に発生するのです。 催奇形性のある薬というのは奇形を起こす頻度が自然の 3%より明らかに高いものを指します。

①NSAID,アセトアミノフェン(カロナール®)

NSAID はプロスタグランディン(PG)の産生を抑制して抗炎症・鎮痛作用を発揮します。 PG は排卵や着床、胎盤形成に関与しているので NSAID 使用によりこれらが阻害される可能性があります。NSAID を妊娠初期に用いると流産のリスクは 5.6 倍に増加し、 1 週以上継続して使用していると 8.1 倍に増加したという報告があります。妊娠後期の 32 週(8 か月)以降は PG 産生抑制により胎児の動脈管早期閉鎖をおこし、胎児死亡や新生児肺高血圧を起こす可能性があるので NSAID 使用は中止するよう推奨されています。アセトアミノフェン(カロナール®)は PG 合成阻害作用がないので妊娠中も比較的安全に使用できると考えられています。

②ステロイド

ステロイドは妊娠初期に使用すると新生児の口蓋裂をきたす危険性が 3~4 倍に増加し、妊娠中後期に使用すると胎児の発育遅延や母親に妊娠高血圧や糖尿病をきたす危険が増すという報告があります。プレドニゾロンは胎盤で不活化されやすいので児に対する影響は少ないと考えられ、妊娠中には胎盤通過性の少ないプレドニゾロンを 使用するのがよいとされています。

③メトトレキサート(MTX)

MTX は RA 治療の標準薬と位置づけられており、患者の多くが服用している薬剤です(2011.02.23 の TOPICS 参照)。
MTX 使用により流産のリスクおよび催奇形性作用があるため 妊娠中は使用禁忌です。日本において RA 女性・男性ともに妊娠計画を避けるべき期間は MTX 投与中および投与終了後 3 ヶ月間とされています。

MTX 以外の DMARDs

  • サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®):これまでの使用報告から児にはほとんど影響がなく、妊娠中も安全に使用できると考えられています。
  • ブシラミン(リマチル®):海外データがなく 日本のデータのみだが、これまで有害事象の報告がないので 妊娠判明までは使用可能とされています。
  • タクロリムス(プログラフ®):胎盤移行性があるので妊婦には使用禁忌となっていましたが、先天異常の発生率増加はなく服用中断で症状悪化の事例もあるため、 2018 年7 月から妊婦への使用が禁忌から外れました。
  • レフルノミド(アラバ®):動物実験で催奇形性が報告され、妊娠中の使用についても安全性が確立していないので 妊娠中の使用は禁忌です。半減期が長い薬剤なので妊娠計画の 2 年前に投与を中止します。

⑤ 生物学的製剤(2010.10.15 の TOPICS 参照)

生物学的製剤の登場により RA 治療は飛躍的な進歩をとげました。妊娠を希望する女性では MTX の使用ができないので、生物学的製剤(ここでは TNF 阻害薬のみです) は挙児希望だがコントロール不良の RA 女性の薬物治療の選択肢となりうると考えられています。
臨床データが極めて少ないですが、妊娠前や妊娠初期の生物学的製剤(TNF 阻害薬)の使用による流産や先天性奇形発生率は非投与妊娠例や一般人口と比較して差がないことが海外の研究で報告されています。生物学的製剤は抗体製剤ですので胎盤通過性があります。エタネルセプト(エンブレル®)、セトリズマブぺゴル(シムジア®) は胎児への移行が極めて少ないことが動物実験および症例報告で示されており、妊娠中にやむを得ず生物製剤を継続する場合はこの両者が比較的安全に使用できると認識されています。 しかし妊娠中の母体を対象とした大規模な介入試験が存在しないので治療の根拠となる研究がありません。これを十分認識したうえでの治療方針決定が重要です。

Cush,J.J.:Biological drug use:US perspectives on indications and monitoring.Ann Rheum Dis.64:iv18-iv23,2005

舟久保ゆう:関節リウマチの治療と妊娠の両立。Jpn.J.Clin.Immunol,38(1)45-56,2015

関節リウマチ診療ガイドライン(一般社団法人日本リウマチ学会編集)2014、p101-102,p195-197

関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016 年改訂版(一般社団法人日本リウマチ学会編集)、p63-65

4.授乳期における RA 治療薬

出産後の RA は疾患活動性が増加することが多く、 薬物治療を継続しながら授乳することができるかが問題となります。
しかし 授乳期 RA 患者に対して有効性・安全性が確立された研究はなく、 倫理的にも今後行うのは困難と思われます。 したがって動物実験や数少ない症例報告から得られたデータから推測するしかありません。
授乳中でも比較的安全に使用できると考えられている薬剤は NSAIDs,プレドニゾロン、 サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®)、 タクロリムス(プログラフ®)、 生物学的製剤(TNF 阻害薬) です。
しかしこれらの薬剤も有効性・安全性は確立していないので原則として DMARD と生物学的製剤は中止すべきです。 やむを得ず使用する場合はリスク(副作用) とベネフィット(効きめ) を十分考慮したうえで決定すべきとされています。

(2018.9.8)

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)とは

関節リウマチ治療のアンカードラッグ(標準薬剤)として位置づけられているメトトレキサート(MTX)が 1999 年に日本で認可されてからやがて 20 年になりますが、MTX 服用中にリンパ腫を含めたリンパ増殖性疾患(MTX 関連リンパ増殖性疾患:MTX-LPD)がときに発症することが近年報告され、一部は死亡に至る重篤な合併症として認識されています。
MTX-LPD は MTXの休薬により約 30 %が1か月以内に症状の寛解を得るのが特徴です。MTX-LPD の既往を持つ関節リウマチの患者さんは MTX の再使用ができないので、治療薬の選択はリウマチ医にとって今後の重要な課題です。

関節リウマチ(RA)患者は一般人口に比較して 2~4 倍の頻度でリンパ腫の合併が多いことが知られています。近年、RA治療のアンカードラッグ(中心的薬剤)として位置づけられているメトトレキサ ート(MTX)投与中にリンパ腫を含めたリンパ増殖性疾患(MTX 関連リンパ増殖性疾患:MTX-LPD)がときに発症するという報告があり、一部は死亡に至る重篤な合併症として認識されています。
リンパ増殖性疾患(LPD)には 腫瘍性疾患(悪性リンパ腫)、非腫瘍性疾患(反応性過形成)、境界領域病変がありますが、臨床的に問題になるのは悪性リンパ腫です。診断は病変部位の生検(組織をとって調べる)で確定します。

(日本における患者背景)
日本でのMTX-LPDの報告では 診断時年齢は中央値 67 (34-87) 歳、男女比約 1 : 2 、RA 発症から LPD 発症までの期間は平均 11 年、MTX 投与期間は約 5 年でした。

(臨床像)
MTX-LPD と診断された半数はリンパ節の腫大で見つかりますが、半数はリンパ節外である消化管・皮膚・肺・唾液腺・甲状腺・扁桃・鼻腔の病変として見つかっており、通常のリンパ腫に比べて MTX 服用中の LPD はリンパ節以外の病変が多いのが特徴です。
患者さんは頸部や腋窩などにリンパ節の腫脹を見つけた際に、すぐ 受診していただくのが早期発見につながります。
組織型はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBL)が 35-60 %と最も多く、次にホジキンリンパ腫が 12-25 %となっています。
メトトレキサート(MTX)の投与期間、投与量と発症の因果関係は証明されていませんが、特徴的なのは MTX の休薬に伴って約 30 % に症状の寛解が見られることです。しかし約 50 % は寛解後に再燃するといわれています

(治療)
MTX-LPD の治療は疑われる症状出現後、ただちに MTX を中止し 2 週間の経過観察を行うことが治療の第一選択とされています。病変の退縮を認める場合は追加治療を行わずに慎重に経過観察をします。MTX の中止のみで寛解に至らなければ組織生検で診断を確定した後、組織型に応じた化学療法が必要となります。
MTX-LPD 寛解後の関節リウマチの治療は 日本リウマチ学会の「2016年 MTX 診療ガイドライン」によると「免疫抑制作用を持つ薬剤を極力避け、MTX の再使用や TNF 阻害作用を持つ生物製剤の使用は再発のリスクを考慮し原則行わない」となっています。このため治療薬の選択はリウマチ医にとって今後の重要な課題です。

(2017.10.05)

バイオシミラーとは

2003年以降 関節リウマチの患者さんへの投与が可能になったバイオ(生物学的)製剤は多くの患者さんに対して高い有効性を発揮しリウマチ治療を劇的に改善しましたが、その反面 並外れて高い薬剤価格のため、使っている患者さんに大きな経済的負担を強いることになりました。ところが多くの先行バイオ製剤が2012年以降に特許期間の終了を迎えるため、今後 安価なバイオシミラー(バイオ後続品)が発売される予定です。このため より多くの患者さん方がバイオ製剤による治療を受けることができると思われます。

関節リウマチはいったん発症すると長期間にわたって治療を継続する必要がある疾患です。そのため医療費が患者やその家族に重くのしかかってきます。特に2003年以降 関節リウマチの治療に使用が可能となったバイオ(生物学的)製剤は多くの患者さんに対して極めて高い有効性を発揮し、関節リウマチの治療を劇的に改善しました。その反面 薬剤価格が並外れて高いので 身体障害のない段階から治療を開始する場合 身体障害者認定の対象にならず、高齢者でなければ3割負担による支払いを余儀なくされます。

表は先行バイオ製剤とその薬価(2012年)と一日当たりの薬剤費をまとめたものです。バイオ製剤の1日当たりの薬剤費はトシリズマブ(アクテムラ®)が 3,146円と最も低価格で 次いでインフリキシマブ(レミケード®)の3,591円、アバタセプト(オレンシア®)の3,819円、エタネルセプト(エンブレル®)の4,429円、アダリムマブ(ヒュミラ®)とゴリムマブ(シンポニー®)がともに5,078円の順になっています。高額療養費制度があるとはいうものの、1ヵ月28,000円から45,000円の自己負担金の増加は非常に大きく、患者さんの経済的負担を増しています。
日本リウマチ友の会が行った関節リウマチの患者さん3,142名を対象としたアンケート調査では「バイオ製剤を使いたいが 高額なので使えない」と回答した方が43.1%に達し、経済的理由でその恩恵を受けることができない患者さんが多数おられることがわかりました。
またバイオ製剤は高い有効性と安全性が得られることが関節リウマチ以外の多くの疾患でも確認され、近年急速に使用が増加しており、新薬にしめるバイオ製剤の割合は年々増加しています。数年以内には世界での売り上げ上位10品目中8品目をバイオ製剤が占めるとの予測もあります。このことが医療費高騰の原因にもなっています。

このような状況の中、2012年以降に先行バイオ医薬品の中で特許期間の終了を迎えるものが出てくるため、より安価なバイオシミラー(バイオ後続品)の登場が期待されるようになりました。

医薬品には低分子医薬品と高分子医薬品があり、バイオ製剤は高分子医薬品に分類されます。バイオ製剤は超高分子で複雑な構造をもつ抗体製剤のため 全く同じものが作れません。そこで低分子医薬品の後発品をジェネリック医薬品と呼ぶのに対し、バイオシミラーという呼び名を用いて区別しています。

つまりバイオシミラーとは先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品として異なる製造販売業者により開発された医薬品です。バイオシミラーの開発には新薬とほぼ同様の試験を行う必要があり、申請にあたっては それらすべてのデータが要求されるので、高い品質が確保されるものと考えられます。

現在 日本で発売されているバイオシミラーはインフリキシマブBS点滴静注用100mg「NK」のみですが エタネルセプトとアダリムマブが開発中あるいは発売予定です。気になる薬価はいずれのバイオシミラーも先行バイオ医薬品の70%程度とされています
(2016.09.07)

関節リウマチ治療における「B型肝炎ウイルスの再活性化」とは

最近、関節リウマチの治療は メトトレキサート( MTX) や生物学的製剤の使用により飛躍的に進歩しました。ところがB型肝炎ウイルスに感染して治ゆした「既往感染者」や感染後ウイルスを体外に排除できず保有し続ける「持続感染者(キャリア)」が、このような薬剤による治療を受けると血中にB型肝炎ウイルスが再検出されたり、血中ウイルス量が増加してくることがあります。これを「B型肝炎ウイルスの再活性化」といいます。さらに血中ウイルス量が増加すると肝炎を発症することがあります。これを「de novo(デノボ) B型肝炎」といい 重症化しやすいため、発症前からの抗ウイルス剤の予防投与が強く勧められています。

B型肝炎ウイルス(HBV)は 全世界で約3億5000万人が感染していると言われ、そのうち日本では約130~150万人(およそ100人に1人)が感染していると推定されています。

HBVへの感染は HBVの含まれる血液や体液がヒトの体内に入ることでおこります。具体的にはHBV陽性母親からの出産時の母子感染(現在ではワクチンの予防投与の普及でかなり減少)、輸血(現在ではほとんどない)、医療者の針刺し事故、性交渉、入れ墨・覚せい剤注射などでの器具の使い回し などがあります。

現在も 年間約10,000人の新規感染者がいると言われています。

B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に感染して肝炎をおこします。肝炎が持続すると慢性肝炎から肝硬変さらには肝細胞がんへと進展する可能性があります。

(B型肝炎ウイルスの再活性化とは)

B型肝炎ウイルス(HBV)に感染すると多くの人は肝炎の症状をおこさずにウイルスは体内から排除されてなおります(治ゆ)。一部の人では急性肝炎を発症した後になおります。このようにHBV感染がなおった人を「既往感染者」といいます。しかし 既往感染者でもHBVの遺伝子の一部が肝臓の細胞中に残ってしまうことがわかって来ました。
一方でHBVに感染後ウイルスが完全に排除されず、肝炎を発症しないまま体内にウイルスを保有し続ける場合があります。このような人を「持続感染者(キャリア)」といいます。

これらの「既往感染者」や「持続感染者(キャリア)」が化学療法や免疫抑制療法を受けている間あるいは終了後に血中にB型肝炎ウイルスが検出されるようになったり、ウイルス量が増加したりする場合があります。これを「B型肝炎ウイルスの再活性化」といいます。
さらに血中のHBV量が十分に増加すると肝炎を発症することがあります。これを「de novo(デノボ)B型肝炎」といいますが、De novo B型肝炎は重症化しやすいのが特徴で、時に急速に肝不全に至る死亡率の高い劇症肝炎化することが知られています。

①持続感染者(キャリア)と既往感染者の診断

血液検査でHBs抗原が陽性ならば「持続感染者(キャリア)」、HBs抗原が陰性でHBc抗体、HBs抗体のいずれかまたは両者が陽性ならば「既往感染者」と診断します。
持続感染者(キャリア)または既往感染者と診断された場合には血中B型肝炎ウイルスのDNA量 ( HBV – DNA )を調べて血中ウイルス量を測定するなどのさらに詳しい検査が必要です。

②意外に高い関節リウマチ患者のB型肝炎ウイルス既往感染者率

HBs抗原が陰性の関節リウマチ患者 509名を調査したところ、157名 ( 30.8 % )でHBc抗体、HBs抗体のいずれかまたは両者が陽性となり「既往感染者」と診断されました。
( Prevalence of reactivation of hepatitis B virus replication in rheumatoid arthritis patients. Modern Rheumatology, 2011 ( 21 ) :16 – 23 )

③観察期間18カ月でB型肝炎ウイルス再活性化率は8.3%

さらに上記の研究で「既往感染者」と診断された 157 名を18ヶ月間 経過観察したところ、そのうちの 13名 ( 8.3 % ) が血中B型肝炎ウイルスDNA ( HBV – DNA )が陽転化し、B型肝炎ウイルスの再活性化が認められました。

④使用頻度の高かった併用抗リウマチ薬

上記の研究で観察期間中に用いた抗リウマチ薬について血中B型肝炎ウイルスDNA ( HBV – DNA )が陽転化した13名と持続陰性だった144名を比較検討したところ、陽転化群において 生物学的製剤・メトトレキサート(MTX)・高用量の副腎皮質ステロイド・タクロリムス水和物の使用頻度が有意に高い ( P<0.01 ) ことが明らかとなりました。
このことから既往感染者でこれらの薬剤を使用する場合は定期的なHBV-DNAの測定が必要とされました。

(B型肝炎ウイルス再活性化による de novo 肝炎発症予防対策)

関節リウマチの治療中に生物学的製剤・メトレキサート(MTX)・高用量の副腎皮質ステロイド・タクロリムス水和物のような薬剤が使用される場合、B型肝炎ウイルス持続感染者(キャリア)および既往感染者の一部にB型肝炎ウイルス再活性化によりB型肝炎が発症し(de novo 肝炎)、その中には死亡率の高い劇症肝炎化する場合があるので注意が必要です。

下図の日本肝臓学会が発表した「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」によると治療開始前にHBs抗原陽性のキャリアはもちろんのこと 既往感染者で血中B型肝炎ウイルスDNA( HBV – DNA )が陽性の場合には 治療前できるだけ早期から抗ウイルス剤(核酸アナログ ― バラクルードR)の投与を開始して HBV – DNA を検出感度以下にすることが望ましいとされています。また HBV – DNAが陰性でも治療中は定期的にHBV – DNAを測定し、もし陽転したら直ちに核酸アナログの投与を開始すべきとしています。
肝炎発症後に核酸アナログを投与しても十分な効果は期待できず、また肝炎の発症により関節リウマチの治療も困難になるので、肝炎発症に先行してHBV – DNA が陽転化した時点で核酸アナログを予防投与することが極めて重要とされています。

(日本肝臓学会:免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン (2011年改訂版) より引用)

(日本肝臓学会:免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン (2011年改訂版) より引用)

(2016.02.20)

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版について(主な改訂項目)

脆弱性骨折なしの場合の治療開始基準で若干の変更がなされた他、抗RANKL抗体やビスホスホネート製剤の一部に高い評価が与えられました。

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版が7月に発刊されました。2011年版以来となりますが、その間に骨粗鬆症の診療における重要な基準の改定が相次いだこと、新規の作用機序を有する薬剤や既存薬の新たな剤形が登場したことから改訂版が策定されました。内容は原発性骨粗鬆症で脆弱性骨折(わずかな外力で生じたと考えられる非外傷性骨折のこと)がない場合の薬物治療開始基準に若干の変更がなされた他、治療薬の評価は推奨グレードではなく有効性となり、選択しやすくなりました。

*A,B,C の意味は本文中の説明を参照

具体的には新規のテリパラチド酢酸塩(テリボン®)、イバンドロネート(ボンビバ®)、抗RANKL抗体デノスマブ(プラリア®)、既存薬の注射剤や点滴製剤といった新しい剤形に関する情報とエビデンスを追加したほか、治療薬の選択や評価管理に関する記述を追加しました。
さらに 骨粗鬆症治療薬については推奨グレード(A-D)に替えて「有効性の評価(A,B,C)としました。骨密度上昇効果については 「A :上昇効果がある」「B:上昇するとの報告はある」「C:上昇するとの報告はない」、骨折発生抑制効果は椎体・非椎体・大腿骨近位部のそれぞれについて「A:抑制する」「B: 抑制するとの報告がある」「C:抑制するとの報告はない」との基準で評価することになりました。
骨粗鬆症に適応がある治療薬のなかで デノスマブ(プラリア皮下注60mgシリンジ®)、アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®)、リセドロネート(ベネット®、アクトネル®)の有効性については 骨密度上昇効果ならびに椎体・非椎体・大腿骨近位部いずれの骨折発生抑制効果ともにA評価が下されています。
(2015.10.17)