関節リウマチの患者は重篤な感染症にかかりやすいのか?— MTXや生物学的製剤との関連は?

 

 

関節リウマチ患者は重篤な感染症にかかりやすいことがかなり前から指摘されていました。併用薬としてのステロイドホルモンは最も感染症のリスクを高めることがわかって来ました。関節リウマチ患者の約 80 %に使用され、治療の標準薬になっているメトトレキサート(MTX)は許容量の範囲内の使用では感染症のリスクにならないという多くの報告があります。また最近処方されるようになってきた生物学的製剤やJAK 阻害剤は感染症に対するリスクをやや高め、最も多い肺炎は高齢者、ステロイド使用、糖尿病、既存の肺病変という条件が重なるとさらに発症のリスクが高まることがわかって来ました。

 

関節リウマチ患者において 重篤な感染リスクが一般人に比べて2倍以上高いことが 50年前にすでに示唆されていました[1,4]が、免疫系に作用する抗リウマチ剤が登場するに至り そのリスクはどうなって来たのでしょうか? メトトレキサート(MTX) 、生物学的製剤、JAK阻害剤の使用は感染症にかかるリスクをさらに高めるのでしょうか?

関節リウマチの免疫系の異常は感染微生物に対する防御の弱体化に影響を及ぼすことが示唆されています[3,4]。さらに合併する糖尿病や慢性肺疾患、関節リウマチに関連する機能障害、喫煙なども患者の感染リスクを高めることがわかっています[4]。

 

(併用薬の感染症に対するリスク)表1.参照

①ステロイド剤

ステロイド剤は併用薬の中で最も大きなリスクがあり[3,7,8,9]、肺炎に関して言えば プレドニゾロンの肺炎リスクは非使用者の 1.7 倍で使用量が増えるほど増加し、10 mg 以上では最大 4.3 倍まで増加します[7]。

②合成抗リウマチ剤 (csDMARDs)

スルファサラジン(アザルフィジン®)やブシラミン(リマチル®)では感染リスクは上がらないが、レフルノミド(アラバ®)ではやや肺炎に対するリスクがあります ( 1.3 倍)[7]。

メトトレキサート( MTX ) は現在関節リウマチ治療の標準薬とされ約 80 % の患者で使用されていますが、許容量の範囲では有意な感染リスクの上昇はないという報告が多く見られます[5,7,8,9]。

②生物学的製剤( TNF 系、非 TNF 系 )

関節リウマチの感染症の代表として呼吸器感染症があげられます。関節リウマチには 30 ~ 40 % に気管支拡張症が合併します。これはかなりの高頻度であり 関節リウマチの関節外病変と言ってもよいくらいです。この合併頻度は一般人口に比べて 10 ~ 20 倍以上です。気管支拡張症があると肺炎、結核、インフルエンザにかかりやすいことが明らかになっています[5]。

日本で2002年に初めての生物学的製剤が発売されて以来、関節リウマチの治療に劇的な変化がおこりました。しかし生物学的製剤は微生物の感染防御に重要な働きをするマクロファージや好中球の働きを抑えるので感染症のリスクがやや上昇します ( 1.2 ~ 0.8 倍 )[7] 。特に使用開始後1年以内や高用量での使用でとくにリスクが上昇するとされています[5,9]。しかしTNF系生物学的製剤では有意なリスクがあったという報告[6]がある一方で 非TNF系では有意なリスクの上昇はなかったという報告[2]があり、生物学的製剤全体の重篤な感染症リスクについては結果は一定ではありません。

生物学的製剤使用中の死因として最も多いのは肺炎で、一般人との比較では約4倍の頻度です。生物学的製剤使用時の肺炎併発のリスクとして高齢者、ステロイド使用、糖尿病や気管支拡張症などの既存の肺疾患の合併があげられています[3,7,8]。患者がより高用量のステロイド剤を必要とする場合は感染のリスクはかなり上昇します。したがって生物学的製剤とステロイド剤の併用は慎重にすべきで、高齢者や合併症の危険因子を持つ場合は避けるべきとされています[7]。

インフルエンザの流行する時期では続発性肺炎の原因菌としては肺炎球菌が多く、2015 年のアメリカリウマチ学会( ACR )の治療ガイドライン[10]では抗リウマチ薬使用前および治療中に肺炎球菌ワクチン(特に PCV 13 ワクチン、ブレベナー13®)やインフルエンザワクチン接種を推奨しています。

③ JAK 阻害剤

現在 日本で関節リウマチに適応がある JAK 阻害剤は 5種類あります。感染リスクは生物学的製剤と同等かやや低いとされています。しかし帯状疱疹に関しては有意に多いとされ、注意が必要です[11]。2018年に認可された帯状疱疹サブユニットワクチン(シングリックス®)は不活化ワクチンであるため生物学的製剤や JAK阻害剤を使用中の患者にも安全に使用することができ接種が勧められています。

 

(生物学的製剤やJAK阻害剤の使用で注意しておくべき特殊な感染症)

A. 抗酸菌症―主な抗酸菌には結核菌と非結核性抗酸菌があります。

① 結核

生物学的製剤とくにTNF阻害作用薬は結核菌に対する肉芽腫形成を阻害するので 初の生物学的製剤であるインフリキシマブが導入された当初、結核の発症が問題になりました。しかし使用前に潜在性肺結核(結核が感染しても発病していない状態)を発見することの重要性が認識され、使用前から抗結核薬による予防投与が広く行われるようになった結果、生物製剤使用後の結核発症は激減しました。現段階ではJAK 阻害剤も生物学的製剤と同様の結核に対する配慮をすべきとされています。

② 非結核性抗酸菌症 ( NTM )

生物学的製剤や JAK 阻害剤使用で問題になる抗酸菌症に非結核性抗酸菌症 ( NTM ) があります。なかでもMAC症は中高年女性に多く発症するため 関節リウマチの罹患年齢層と重なり、胸部レントゲン上 関節リウマチに伴う細気管支病変との鑑別が難しいことが問題になります。関節リウマチ患者で活動性の非結核性抗酸菌症が合併した場合には生物学的製剤の使用は禁忌とされています。

B. ニューモシスチス肺炎

ニューモシスチス・イロベチイという真菌の一種によっておこる肺炎です。生物学的製剤の投与開始後 3 ~ 6ヶ月以内の発症が多く、高齢者・既存の肺疾患・プレドニゾロン換算6 mg 以上のステロイド剤使用がリスク因子とされています。早期に発見・治療すれば予後は良好ですが、リスク因子を持つ場合は予防薬(ST 合剤 )の投与がすすめられています。

 

 

表.1  併用薬ごとの感染症リスク(Hazard ratioとは統計学上の用語で相対的な危険度を客観的に表す数値です。右側のAdjusted Hazard ratioが重要で 年齢、性別、およびHAQ、肺疾患、糖尿病、心筋梗塞、DMARDまたは生物学的薬剤の数、RA期間、これまでの喫煙、教育カテゴリー、安全登録メンバーシップ、およびプレドニゾン使用量で補正した危険度です)。文献 7から引用画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 8ec8e9cb8631ad458d799d0d4c16224d.png一番左の欄が薬剤名で上から すべての量のプレドニゾロン、プレドニゾロンなし、プレドニゾロン5mg以下、プレドニゾロン>5-10mg、プレドニゾロン>10mg、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、スルファサラジン、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ

 

(参考文献)

  1. Baum J. : Infection in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 14: 135 – 137, 1971
  2. Campbell L., et al. : Risk of adverse events including serious infections in rheumatoid arthritis patients treated with tocilizumab: a systematic literature review and meta-analysis of randomized controlled trials.  Rheumatology( Oxford ) 50 : 552 -562, 2011
  3. Doran M.F., et al. : Predictors of infection in rheumatoid arthritis.  Arthritis Rheum. 46: 2294 – 2300, 2002
  4. Doran M.F., et al. : Frequency of infection in patients with rheumatoid arthrisis compared with controls : a population – based study. Arthritis Rheum. 46: 2287 – 2293, 2002
  5. Galloway J.B., et al. : Anti-TNF therapy is associated with an increased risk of serious infections in patients with rheumatoid arthritis especially in the first 6 months of treatment : updated results from the British Society for Rheumatology Biologics Register with special emphasis on  risks in the elderly. Rheumatology ( Oxford ) 50 : 124 – 131, 2011
  6. Michaud T.L. , et al. : Comparative safety of tumor necrosis factor  inhibitors in rheumatoid arthritis: A meta-analysis update of 44 trials.  Am J Med. 127: 1208 – 1232, 2014
  7. Wolfe F., et al.:Treatment for rheumatoid arthritis and the risk of  hospitalization for pneumonia : Associations with prednisolone, disease – modify ing antirheumatic drugs, and anti-tumor necrosis factor therapy.   Arthritis Rheum. 54 : 628 -634, 2006
  8. 松本 篤、松井利浩:関節リウマチ患者における重症感染症リスク因子の検討。 J. Clin. Immunol. 38 ( 2 ) 109 – 115, 2015
  9. 渡辺 彰:生物学的製剤と感染症・化学療法。日本化学療法学会雑誌 65(No.4) : 568 – 576, 2017 
  10. Singh J.A., et al. : 2015 American College of Rheumatology Guideline for the Treatment of Rheumatoid Arthritis . Arthritis Rheumatol. 68(1): 1 – 26, 2016
  11. Bechman K., et al. : A systematic review and meta-analysis of infection risk with small molecule JAK inhibitors in rheumatoid arthritis.  Rheumatology (Oxford) 58 (10) : 1755 – 1766, 2019

 

( 2020. 12. 21 )