骨粗鬆症の治療において骨の質(骨質)を評価することの重要性について

骨の強度を決定する因子として骨の質(骨質)が注目されるようになりました。骨質を決めるのは骨の単位体積あたり50%をしめるコラーゲンの分子どうしを結び付けて鉄筋の梁(はり)の役目をする「架橋」です。架橋には善玉と悪玉(AGEs)があり、悪玉が増えると骨の強度が低下して骨折しやすくなります。骨粗鬆症の治療にあたっては骨リモデリング(骨形成と骨吸収)を制御するだけでなく、骨芽細胞機能を高めて善玉コラーゲン架橋形成が行われるようにする必要があります。また、悪玉であるAGEs架橋を増やす生活習慣病の十分なコントロールを行う必要もあります。

 

骨粗鬆症とは「骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患である」と定義されます(2000年NIHコンセンサス)。以前のTopics(2014.4.14)でも述べたように 骨では骨を壊す細胞(破骨細胞)により古い骨は壊され(骨吸収)、骨を作る細胞(骨芽細胞)により新しく作られています(骨形成)。骨吸収と骨形成は絶えずくりかえされており、これを「骨のリモデリング」と言います。骨粗鬆症では「骨のリモデリング」に異常がおこり 骨形成より骨吸収が上まわっていると考えられています。

加齢に伴う性ホルモンの減少は骨吸収優位の骨リモデリングを引き起こすことが知られています。この結果 骨密度の低下がおこってきます。このような骨吸収優位の骨密度の低下に由来する骨強度の低下は骨吸収抑制薬により効率よく改善することがわかっています。しかし、薬物治療により骨吸収が抑制され骨密度が上昇しても、あるいは骨密度がもともと正常なのに骨折リスクが低減しない(骨折しやすい)患者さんがいることがわかってきました。こうした事実は「骨リモデリング」とは独立した別個の機序で骨強度を規定する因子が存在することを示しています。これが「骨質因子」と言われるもので近年注目されて来ました。

     骨強度 = 骨密度( 70 % ) + 骨質 ( 30 % )

                                  (2000年NIH コンセンサス会議のステートメントより)

で表されるように骨の強度には 骨密度が 70 %、骨質が 30 % 関与しています。骨密度を決めるものはカルシウム量ですが、骨質を決めるものは単位体積当たり50 %をも占めるコラーゲンです。コラーゲンの質は骨リモデリングとは独立した機序で変化します。そして単位体積当たり半分を占めるコラーゲンの質は骨強度に直接的な影響をおよぼします。骨におけるコラーゲンの質に重要な役割を果たすのはコラーゲン分子を結び付ける「架橋」です。つまり骨を鉄筋コンクリートの柱とすると梁(はり)に相当するものがコラーゲン分子どうしを結び付ける「架橋」でコンクリートに相当するものが「骨塩」です。骨密度測定はコンクリートの状態を見ているだけであって 梁(はり)がさびて劣化して柱がもろくなっているかどうかを調べることはできません(図1)。

 

 

(図1)骨と鉄筋の構造 (YOMIURI ONLINEより転載)

 

したがって 現在の骨粗鬆症治療において骨吸収が抑制されて骨密度が上昇しても骨折リスクが減らないことがあるのは「骨質の劣化」ということで説明することができます。

 コラーゲン分子同士を結び付ける架橋には ①酵素依存性架橋(生理的なもので善玉架橋)と②AGEs( Advanced Glycation Endproducts )架橋(悪玉架橋)があり、悪玉架橋であるAGEs架橋が増加することにより 骨の強度が低下します(図2,3)。

 

(図2)骨のコラーゲン架橋の種類 (斉藤 充, CLINICIAN 2006 より)

 

  (図3)骨のコラーゲン架橋のイメージ図       

 

AGEs架橋が増加するのは 性ホルモンの減少、加齢、糖尿病や腎不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、動脈硬化などの生活習慣病の合併が原因とされています。

AGEs架橋が増加しているかどうかをみるためには 尿中のペントシジンという物質の量を測定するのが有効とされ、簡単に測定できるキットが開発中です。

骨質を改善する薬剤は骨芽細胞機能を活性化する副甲状腺ホルモン(PTH)製剤のほかに選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)やビタミンD製剤なども有効とされますが、 まだ長期のデーターがなく結論が出ていません。

骨粗鬆症の治療にあたっては骨リモデリング(骨形成と骨吸収)を制御するだけでなく、骨芽細胞機能を高めて善玉コラーゲン架橋形成が行われるようにする必要があります。また、悪玉であるAGEs架橋を増やす生活習慣病の十分なコントロールを行う必要もあります。

 

 

Saito M, Marumo K : Collagen cross-links as a determinant of bone quality : a possible explanation for bone  fragility in aging. osteoporosis, and diabetes mellitus. Osteoporosis Int  21 : 195-214, 2010

Saito M, Marumo K : Effects of collagen crosslinking on bone material properties in health and disease. Calcif Tissue Int  97 : 242-261, 2015

 斎藤 充、丸毛 啓史 :骨質劣化の機序 CLINICAL CALCIUM  27(No.8) : 1075-1087, 2017

 斎藤 充、丸毛 啓史 : 骨質評価の最新知見 Medical Practice  35(No.11) : 1741-1744, 2018

 

(2019.06.27)