PICTURES AT AN EXHIBITIONー展覧会の絵 ( EMERSON, LAKE & PALMER )

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PICTURES AT AN EXHIBITION ( E,L&P ) / 1971年11月発売

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EMERSON, LAKE & PALMER

EMERSON, LAKE & PALMER ( ELP ) は Keith Emerson (Key), Greg Lake (Bass), Carl Palmer (Drum) の3人が結成した progressive rock に分類されるイギリスのバンドです。彼らが1970~71年にかけて EMERSON LAKE&PALMER, TARKUS という2枚のアルバムを発表した後に、1971年末に発表したのが ライブ盤であるこの PICTURES AT AN EXHIBITION(展覧会の絵)です。

ロック・バンドが成立するためには ふつう 3 pieces つまり ギター、ベース、ドラムの3人が最低必要とされています。ところが このバンドにはギター・プレーヤーが存在せず(Lake が時々アコースティックギターを弾いていますが)、代わりにキーボード・プレーヤーが入ってキーボード、ベース、ドラムの 3 pieces 構成となっています。つまり ジャズ・バンド スタイルです。この時代のロックは派手なギター・リフを武器にギター、ベース、ドラムの達人が戦いを繰り広げるというのが常道で ロック・ギターの歪んだ音によって得られる「破壊的パワー」は必須のものでした。ギター不在のロックバンドで当時成功を収めたのはこのバンド以外には思い浮かびません。それくらいロック・バンドにとってギター・プレーヤーというのは重要な存在だったのです。

ギター不在の場合、必然的にキーボードがメロディー、ソロ、ハーモニー等のサウンドの上層部全般を担う必要が出てきますが ELP の場合、キーボードのKeith Emerson が卓越した技量でムーグ・シンセサイザーやハモンドオルガンを演奏してこの役割を果たし、さらにベースのGreg Lake がワウやファズ・トーンをかけた目立つベース・ラインやベース・ソロを弾くことでギター・パートを補い、そしてCarl Palmer の著しく手数が多く 歯切れがよいドラムのおかげでギターがあるのと同じ迫力の演奏を行っています。

Keith Emerson の最大の功績はムーグ(正確にはモーグと発音)・シンセサイザー(Moog Synthesizer)の魅力を世界中に知らしめ、その発展の立役者となったことです。それ以前にもTHE BEATLES が1969年発売のアルバムABBEY ROAD の中でムーグ・シンセサイザーを使用して知名度を高めましたが、Keith Emersonは さらにムーグ・シンセサイザーが楽器として無限の可能性を秘めていることに気付いていたのです。彼があそこまで使用していなかったら楽器メーカーも開発しなかったかもしれません。

ムーグ・シンセサイザーは ELP の代名詞とまで言われていますが、演奏の主役はdistortion を効かせたハモンド・オルガンとピアノで、 クラシックとジャズからの影響を多く受けた?Keith Emerson?のプレイは当時のロック界では天才と評価され、要所要所で聴かせてくれるシンセサイザーの音色は当時のprogressive rock に大きな影響を与えたと言われています。

このアルバムの原曲は19世紀のロシアの作曲家ムソルグスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」です。このELP バージョンは管弦楽用に Maurice Ravel が編曲したバージョンを手本にしています。但し、そっくりそのままコピーするのではなく、組曲の中からの抜粋でありオリジナル曲を編入したり、新たに歌詞を加えたりしています。

アルバムの始まりはKeith Emerson?のハモンド・オルガンがロック色を強く押し出す有名な「Promenade-プロムナード」です。この中では舞台となった Newcastle City Hall に1928年に設置されたHarrison & Harrison pipe organ も使用されて荘厳な雰囲気を創り出しています。「The Gnome-こびと」を経て再度「Promenade」。そしてGreg Lake のオリジナルとなる静かで落ち着いた曲「The Sage-賢人」、ここではLakeのすばらしいアコースティック・ギターに乗って彼の力強いボーカルが聴けます。このあたりは Lake がかつて在籍したKING CRIMSONが思い出させられます。そして静けさの中に突然シンセサイザーの甲高い音が響き渡るというEmerson の天才的な演奏が展開する「Blues Variation」が始まります。Lake のベースとPalmer の力強いドラムが絡み合い 完全なロックです。
そして 再々度「Promenade」が始まります。Carl Palmer のドラムが素晴らしく 一番迫力のある「Promenade」です。続いて「The Hut of Baba Yaga-バーバヤーガの小屋」 「The Curse of Baba Yaga-バーバヤーガの呪い」ですが、クラシックを感じさせるものはあまりなく 完全なロックと言ってもよく、シンセサイザーとベースとドラムの競演です。
最後のハイラ イトが「The Great Gates of Kiev-キエフの大門」です。Lakeの力強いボーカルに加えてPalmer のドラムがこの大作を極限まで盛り上げています。

このライブの模様は1972年10月8日のNHK Young Music Show で放送され、Keith? Emersonがナイフをオルガンに突き立てるシーンが有名になりました。キーボードにナイフを突き立てるという演出(鍵盤を押しっぱなしの状態にして、手を離しても音を出すことができる)は、Keith Emerson 独特のステージ・アクションとなりました。

アンコールは「Nutrocker」でTchaikovsky の「くるみ割り人形」の1曲である「行進曲」をロックにアレンジしたものです。歯切れ良いKeith Emerson のキーボードが冴えわたるすばらしい演奏です。日本ではこのアルバムからこの曲(A)とキエフの大門(B)がシングルカットされました。

EMERSON, LAKE & PALMER?はKING CRIMSON, YES, PINK FLOYD と並んで「プログレ四天王」と呼ばれていました。これらのバンドに共通するのは圧倒的なそ演奏能力の高さで 演奏の完璧さは時に天才的と言っても良いほどです。そのような甲乙つけがたいグループの中にあってクラシック音楽を独自の解釈でロック(progressive)にアレンジした彼らの底力を反映したのが「PICTURES AT AN EXHIBITION-展覧会の絵」という名盤だと思われます。

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オルガンの上に飛び乗りナイフを突き立てるKeith Emerson