新しい抗リウマチ薬 トファシチニブ(tofacitinib)について

新しい抗リウマチ薬 トファシチニブ(JAK阻害剤)は メトトレキサート(MTX) 併用のもとで生物学的製剤であるアダリムマブ(ヒュミラR)と同等の効果のあることが報告されており、発売されれば 患者さんにとって治療の選択肢が増えることが期待されます

2012年12月14日にアメリカリウマチ学会(ACR)から届いたHOTLINE NEWSによりますと 米国食品医薬品局(FDA) は 11月6日 米国ファイザー社のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬( Topics 2011.09.12 を参照 )である 「トファシチニブ(米国の商品名: XELJANZ )」 を世界で初めて承認しました。

適応はメトトレキサート (MTX) で効果不十分または効果が見られない 中等度から重度の関節リウマチです。

JAK 阻害薬は 炎症性サイトカイン( TNF, IL-1, IL-6 ) が生物活性を発揮するために必要なシグナル伝達系であるチロシンキナーゼの JAKを特異的に阻害する 分子量 312.4 の低分子化合物で、経口投与が可能(注射でない)な抗リウマチ薬としては全く新しいクラスとなります。

多くの生物学的製剤と同様に MTXや他の抗リウマチ剤と併用して使用することが可能であるばかりでなく、単剤としての使用も可能です。しかし 生物学的製剤やアザチオプリン、シクロスポリンなどの強力な免疫抑制薬との併用は認められていません。

アメリカでの承認前の臨床治験の結果は ① 既存の抗リウマチ剤あるいは生物学的製剤に効果不十分な人々に対して単剤での使用 ② MTX に効果不十分な人々に対して MTX との併用 ③ 生物学的製剤(TNF阻害)で効果不十分な人々に対して MTXとの併用 のいずれの試験においても プラセボ(新薬などの医薬品に、本当に効果があるのかを実験する際に使う偽薬のこと)群に比べて有意な改善が認められました。

有害事象(薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない, あるいは意図しない徴候,症状,または病気)は 生物学的製剤と共通するものが多く、最も多く見られた重篤な有害事象は 重症の感染症で この頻度は既存の生物学的製剤と変わりませんでした。 最も多く報告された有害事象は 上気道感染症、頭痛、下痢、鼻咽頭炎でした。また 生物学的製剤に比べて 帯状疱疹の発生頻度が多かったという報告もあります。

使用量は 5mg を 1日2回 経口投与となっています。

最も気になる価格ですが ACR によると 1カ月(30日)分で 2055.13ドル(日本円1ドル93円として 19万1127円!)で生物学的製剤と同様にかなり高価なのが気になります。日本での薬価もほぼ同じぐらいと考えてよいでしょう。

その他、 2012年のアメリカの医学雑誌The New England Journal of Medicine にメトトレキサート(MTX)を投与されている関節リウマチの患者717人を3群に分け、トファシチニブ、生物学的製剤のアダリムマブ(ヒュミラ®)、プラセボをそれぞれ追加投与した所、投与後6カ月の時点で トファシチニブの有効性は プラセボより有意に優れ、生物学的製剤のアダリムマブと数値的に同程度であったという報告が掲載されました。
関節リウマチは全世界で 約 2370万人いるとされています。既存の治療薬は複数ありますが、治療効果が十分でない患者さんも少なからずいます。実際に患者さんの1/3では治療が十分に奏効せず、さらに約半数は 5年以内に特定の抗リウマチ剤に反応しなくなるという報告があります。依然として更なる治療薬の登場が望まれています。

日本でも 近日中に製造承認がおりて 2013年内にも販売されると予想されています。患者さんにとって また治療の選択肢が1つ増えたわけですが、薬価が高ければ生物学的製剤と同様に本当に必要な人々に適切な時期に使用することができないのではないかというのが 懸念されるところです。
(2013.02.18)