TOMMY ( THE WHO )

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TOMMY ( THE WHO ) / 1969年5月発売

ロックオペラ「TOMMY」は THE WHO の 4 枚目のアルバムです。このアルバムはTHE WHO のキャリアの中で最も重要な位置を占め、彼らは「クラッシクの楽曲技法をロックに取り入れ、ロックオペラという新たな分野を切り開いた偉大なバンド」という評価を受けました。ロックオペラとは1 曲目から最後の曲までが 1つの物語に従って特徴付けられている構成が取られているものです。THE BEATLES が 1966 年にアルバムSGT.PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND を出してコンセプト・アルバムというものを提示しましたが、TOMMY はさらにそれを一歩進めたものと思われます。

このアルバムによって THE WHO は大成功をおさめましたが、1969 年の Woodstock Festival ではほぼ全曲演奏され、その様子は映像作品でも見ることができます。
この作品は 視覚・聴覚・発語障害という三重苦の少年 Tommy の孤独や苦悩を音楽で表現した物ですが、後にオーケストラとの共演、映画、ブロードウェイ・ミュージカル化と何度も発表され、彼らのロック史における地位を不動のものにしました。このTOMMY というアルバムは どの1曲がすばらしいと評価できるものではなく、物語を知った上で聴くと 話の進行に従って音楽がよく特徴付けられていると共にどの曲も感動的ですばらしいことがわかります。

THE WHO は 1964年に活動を開始しています。しかし 日本において彼らほど過小評価されたバンドも他にはなかったと言ってよいくらいで 初来日は何と 2004年のTHE ROCK ODYSSEY、単独来日は 2008年でした。

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他の3人とは対照的にステージ上でほとんど動かなかったので「The Ox 」と呼ばれたベースの John Entwistle

THE WHO はステージでギターを叩き壊し、ドラムセットを破壊する暴力的なパフォーマンスで有名なライブ・バンドとして知られる一方で、文学的な歌詞をもつ TOMMY などの作品とのギャップが魅力の一つでした。演奏は初期から大音量で行われていたと言われています。60年代前半 ロック・ミュージックが大衆化し、大会場でコンサートが行われるようになると ミュージシャンからアンプの大音量化、大型化の要求が強まりました。ギターアンプで有名な Marshall アンプの開発においては THE WHO のギタリストである Pete Townshend が強く関わっていたそうです。彼は 最初 直径 30 cm のスピーカーを 8 個入れたキャビネットの制作を提案したそうですが、大きすぎるため Marshall 社は 30 cm スピーカーを 4 個入れたキャビネットを2 台重ねて使うことを発案し これが現在の Marshall アンプの原型となったと言われています。皮肉なことに この大音量のため Pete Townshend は現在まで難聴に苦しめられているそうです。

オリジナル曲の多いバンドですが、ほとんどの曲は Pete Townshend の作詞・作曲によるものです。ギタリストとしての Pete はステージで縦横無尽に飛び跳ね、腕を振り回してコードを弾くウインドミル奏法で有名です。この時代のギターは 派手なギター・リフとライブでのimprovizasion(即興演奏) を主体としたギター・ソロが特徴ですが、彼のギターはコード・カッティングが主体の演奏で 独自のスタイルを確立しました。パワー・コードは現在のロックでもよく使われる奏法ですが これを考えついたのは Pete Townshend といわれています。また Jimi Hendrix や Jeff Beck が得意とする feed back 奏法も実は彼が始めたという説があります(Ritchie Blackmore の話)。

Roger Daltrey のボーカルは 楽器の大音量に押され気味で LED ZEPPELIN の Robert Plant と比べられると当然のことながら弱く感じられてしまいますが、TOMMY の頃には 派手なアクションと共に楽器に負けない唱法を獲得し、THE WHO のボーカリストとしての評価を確立しています。その後 現在に至るまで THE WHO の楽曲を彼なりに解釈してうまく歌いこなしています。2008年の来日公演のbootleg を聴く機会がありましたが、昔の曲を key を変えることなく歌っています。

一流のロック・バンドになるためには 一流のリズム隊(ベース、ドラム)を持っていることが必須と言われますが、THE WHO の場合 リズム隊は超一流でした。
ベースの John Entwistle は THE BEATLES の Paul McCartney, CREAM の Jack Bruce, LED ZEPPELIN の John Paul Jones と共に近代ロック・ベースの創始者の一人で、同世代および後のベーシスト達に大きな影響を与えたとされています。彼のベース・プレイは 単なるリズムだけでなく時にはメロディーを奏でる高度なテクニックで「リード・ベース」とも称されています。彼はステージ上では静かに立って、Townshend や Daltrey のように大きく動かなかったことから「The Ox」の愛称で呼ばれたことがありました。
ドラマーの Keith Moon もロック史上 屈指の名ドラマーと評価されています。ロック界に初めてダブル・バスドラムを持ち込んだ CREAM の Ginger Baker と共に ダブル・バスドラムの使い手として有名です。LED ZEPPELIN の John Bonham の様な破壊力はないものの フィルインの連続とも言える打数の多い彼のドラムは他に類を見ず、後進の数多くのドラマーに多大な影響を与えたとされています。また 私生活においては変人と言われるくらい数多くの奇行も知られています。しかし 自由奔放な生活がたたってか、1978年9 月にアルコール依存症治療のための薬物の過剰摂取で急死してしまいました。この時をもってオリジナル・メンバーでの THE WHO は解散してしまったのです。その後サポート・メンバーを加えて活動していましたが 2002年にはベースの John Entwistle も死去して 初来日した時の オリジナルメンバーは Roger Daltrey と Pete Townshend だけでした。1978年までになぜ来日できなかったのかが なぞであり、悔やまれる所です。 2012年に TOMMY の公演のために単独来日した Roger Daltrey もこのことに触れていました。